映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」感想:好き勝手暴れる軍人たちも組織人

こんにちは。じゅぺです。

今回は「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」について。

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ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」は、麻薬カルテルとの壮絶な戦いを描いた「ボーダーライン」の続編です。今回は、国防省が麻薬カルテルを弱体化させるために、秘密工作によってカルテルに内戦を起こす作戦を立案するところから始まります。すぐに終わるはずだった秘密工作は失敗し、マットとアレハンドロは人質として確保していたカルテルのドンの娘・イザベルをメキシコの親元に返す決死の作戦に打って出ます。

もはや善か悪かではなく、殺すか殺されるかの戦い。犯罪の取り締まりを超えて、完全に戦争です。ミサイルや装甲車は当たり前に出てきますし、マットとアレハンドロも作戦を邪魔すると見なせば誰彼構わず射殺します。そこに「正義」はありません。いつしか何のために戦っているのかすら曖昧になり、ただひたすら「負けない」ために人を殺すようになります。本当に恐ろしいことですが、アメリカという国は昔からずっとこういうことをやってきているんですよね。今回の作戦は明らかにこれまでアメリカがCIAを介して行ってきた秘密工作を意識したものになっていて、非常に皮肉が効いています。

前作で「そこまでやるか?」と叫びたくなる蛮行の数々で観客をドン引きさせてきたマットたちですが、今回は政治の世界と現場の声の間で板挟みになります。超法規的な措置で好き勝手やる軍人たちもしょせん組織人なのが悲しいところです。人の命のかかっている最前線でもこの有様なのか。作戦が失敗したのがバレたくないから、邪魔になったイザベルとアレハンドロは始末しろと。保身のために人殺しを命じる、完全に麻痺した世界の中で、最後の一線だけは越えまいと葛藤する姿が苦しいです。前作以上に、彼らの人間くさい部分が押し出されているように思いました。一応、人の命を救うかどうか悩むぐらいには心を失っていなかったんですね。本来憎しみ合うはずのアレハンドロとイザベルが地獄を生き抜く中で信頼関係を築いていく様も、まだ希望は捨てなくていたのではないかと少しだけ温かい気持ちになりました。結局、それは裏切られるわけですが。

一方、ヴィルヌーブ作品の芸術性は消えてしまい、密着取材ドキュメンタリー的な面白さとは違ったベクトルの魅力を持つ作品になっていました。彼らがなにを大事にして、どこまでを守ろうとしているのかをより深く描いていましたね。この腐った環境に慣れきったおっさんたちが奮闘する一方で、純粋さを失っていく二人の子どもの対比も良かったです。特にイザベルの目からだんだんと生気が引いていくのが恐ろしかった。あの子生意気なボンボン感は何処へ、といった感じです。演じるイザベラ・モナーの表現力も光っていました。

本当に子どもが辛い目に遭ったり、痛めつけられたりする映画は、見ていて胸が苦しくなりますね。未来に希望が持てなくなります。終わりなき地獄、負の連鎖に絶望的な気持ちになりました。劇場を出たあと脳裏に浮かんだのは、冒頭の国境警備の場面とメキシコ国境に向かうキャラバンたちのニュース映像でした。いったい、いつまでこの絶望的な状況は続くのでしょうか。

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」感想:鹿野靖明の生き様から得られるヒント

こんにちは。じゅぺです。

今回は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」について。

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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」は筋ジストロフィ患者・鹿野とボランティアの1年間を描くヒューマンドラマです。主人公の鹿野を演じるのは大泉洋。彼を支えるボランティアのメンバーを高畑充希三浦春馬が演じています。

みなさんは筋ジストロフィをご存知でしょうか。僕も詳しくは知りませんが、全身の筋肉が徐々に機能しなくなるそうで、未だに治療法は見つかっていないようです。手足の筋肉ならまだしも、生命維持に欠かせない呼吸器官や心臓の筋肉も機能しなくなるため、最終的には死に至ってしまう病だと聞いたことがあります。

主人公の鹿野靖明は筋ジストロフィと闘った実在の人物です。残念ながら2002年に42歳の若さで亡くなっています。彼は重い持病を抱えながらも、家族や病院に頼らず、自分で集めたボランティアの力を借りて自宅で生活していました。「こんな夜更けにバナナかよ」はいわゆる「難病モノ」ではあるのですが、単なる「感動ポルノ」ではなく、鹿野靖明が筋ジストロフィでありながらいかに自分らしく生きたのか、という観点から非常に示唆の多い作品になっています。

鹿野は周囲に対し繰り返し「人はやれないことの方が多いのだから、迷惑をかけあって生きよう」と言います。これってものすごく大事なことだと思うんですよね。最近、日本のサラリーマンの有給取得率が世界水準で見ても最低レベルであることが報道されていたように、日本人はとかく「人に迷惑をかけてはいけない」という発想をしがちです。でも、本来は逆であるべきだと思います。「だれかに嫌われそうだから本音は隠す」なんて圧力がそこら中ある社会なんて生きづらいです。自分にも他人にも厳しくして他人に頼らないことにこだわる人より、自らの足りなさを自覚して他人に支えてもらっていることで自分は生きていられるのだと認識している人の方が、よっぽど「自立」しているのではないでしょうか。人にたくさんお世話になっているのに、全部自分の力で頑張っていると信じ込むような人は、僕は信頼できないと思います。なので鹿野の言葉にはもう何度もうなずいてしまいました。

しかし、鹿野がボランティアに支援してもらって自立生活を送ることができるのも、ひとえに彼の人柄だと思います。要するに人たらしですね。自分の障害すら笑って他人を励まして周囲を笑顔にする、その優しさに惚れます。自分の弱さを自覚して、人に優しくできるって強いなと思います。僕は自分のこと周りによく見せたいと思ってしまいがちです笑 彼のように「助け合い」ができる人が一人でも多く増えたら、みんな幸せですよね。もちろん楽しいことばかりではないけれど、悲しい現実が背景にあっても笑いあって過ごせるって最高だと思います。

この映画の魅力は鹿野靖明の生き様であり、それをまっすぐ伝えることができれば正解だと思います。正直なところ映画としては「普通」であり、脚本や演出に巧みさは感じられませんでした。

しかし、俳優陣は存在感たっぷりの演技を見せてくれて素晴らしかったです。主演の大泉洋は、普段の飾り気のない飄々とした佇まいと鹿野靖明のキャラクターがマッチしていてはまり役でした。最初から最後までわがまま放題な人なので、ともすると「ウザい」感情を抱かれがちですが、そこを絶妙なバランスで愛らしい人間に仕上げていました。

美咲を演じる高畑充希も最高でした。彼女は本当に演技が上手いと思います。特に「間」の取り方がリアルです。彼女ってちょっとぼやっとした顔をしていますが、シリアスな瞬間にパッと表情が変わったり、緊張感のある溜めを作ったりするんですよね。鹿野のプロポーズの場面や田中との屋上での喧嘩の場面はゾクゾクしてしまいました。

あとダルダルのネルシャツをインしてもダサすぎないバランを保てる三浦春馬って、すごいですよね。「SUNNY」でもロン毛のDJをやっていましたが、90年代風の男のファッションをギリギリ見られるレベルで着こなせるのは、彼ぐらいかと思います。彼が演じる医学生・田中の葛藤と成長もよかったですね。

本作は鹿野、美咲、田中の3人の主人公にまんべんなくスポットライトが当たっていて、バランスが良かったと思います。その分テンポ感が失われている部分はありましたが。予告編で期待されるレベルの満足感は得られる作品だと思いました。

「台風クラブ」感想:思春期の幼稚性と暴力性

こんにちは。じゅぺです。

今回は「台風クラブ」について。

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台風クラブ」は、相米慎二監督による青春映画です。台風の接近を機に内なる衝動を解放していく中学生たちを描きます。相米監督の作品は「セーラー服と機関銃」を見て以来気になっていて、本作も楽しみにしていた作品です。近所のツタヤになかったのでiTunesでレンタルしました。おうちにいながら名作を見られるって、便利ですねえ。

で、話を戻しますが、僕的に青春映画のオールタイムベストに数えていい作品です。たいへん素晴らしかった。なにがすごいって、思春期の青少年の病理や、心身のアンバランスさゆえの気持ち悪さが、センセーショナルに、かつリアルに描かれているからです。

血や火傷、裸体など生と死のイメージを刺激する映像の数々は、子どもと大人の間であるがゆえの幼稚性と暴力性を象徴しています。プールでの窒息も、クラスメイトのイタズラで負ってしまう火傷も、窓から飛び降りた三上の体が地面に叩きつけられる音も、とてもリアルに痛みを感じます。「ファイト・クラブ」じゃないですけど、痛みによって実感する生もあることでしょう。体の成長に内面が追いつかないもどかしさや、溜め込んでいた性欲は、台風によってかき乱され、自傷行為にも近い狂乱が、少年たちの生に実体を与えるのです。

この映画は、台風通過の翌日に向けてすべてが収束していく作りになっています。その過程で、数学の先生が恋人との問題を教室に持ち込んでしまったり、台風で帰れなくなってしまった生徒たちが雨の中全裸で踊り狂ったり、家出して東京まで行ってしまう女の子がいたりと、さまざまな事件が起こります。

これらの出来事が密接に絡み合って最後に起こるのが、三上の自殺です。彼の死の翌朝、嵐が過ぎて泥だらけになった校庭に突き刺さる彼の死体を写して、この映画は終わります。非常に衝撃的なラストでした。やはり見終わったあとはなぜ彼が死ななければならなかったのか?を考えてしまいます。そこで僕が思うのは、三上という少年は、子どもと大人のあいだに挟まったまま身動きが取れなくなってしまった存在なのではないか、ということです。成長してきたがために将来の人生を意識してしまうけど、かといって大人のようにちょうどいいところで諦めることもできない。ただ未来への漠然とした不安と恐怖に蝕まれていった結果が「生の一部としての死」という悟りであり、自死だったのです。

そうした思春期の内面世界を表現する演出も卓越していました。「暗闇でダンス」のオープニングから普通の青春映画とは違う騒々しさと、少なからぬ不穏さを感じます。そして、独特の間合いを閉じ込めた長回しが、会話の生っぽさと思春期の男女の不安定な姿を強調していきます。さらに、衝撃的なクライマックスを暗示するかのよくに、三上は常に画面の中央でぽつりと寂しげに佇んでいるのです。まるで誰も理解者がいないかのように。一つひとつの構図もキマっていて、非常に快感でした。

ところで、さすがに飛び降り自殺というのは物語的な誇張ですが、三上の絶望は肌感覚で伝わってくるものがあります。というのは、この年頃の僕も、死ぬことや老いることを考えては、意味なく怯えていたからです。これって三上くんの問題と同根な気がします。いま振り返るとなぜああいう精神状態になっていたのかはっきり思い出せませんが、自分という人間の輪郭がはっきりしてきたことへの戸惑いや動揺が、心を不安定にさせるのかもしれません。

いまはDVDしか出ていませんが、そのうちブルーレイでも出たら手元に置いておきたいなあと思う作品です。大傑作でした。

 

「魔法にかけられて」感想:ディズニー・プリンセスの否定と再構築

こんにちは。じゅぺです。

先日「シュガー・ラッシュ:オンライン」が公開されました。この映画は「シュガー・ラッシュ」の続編でありながら、ディズニー・プリンセスの文脈でも語りうる批評性を持っている点で非常に注目すべき作品です。「白雪姫」をはじめとするディズニー・プリンセスの物語は、女の子に「白馬の王子さま」願望を押し付け、男性優位社会の価値観を固定化するイデオロギーに基づく作品として、フェミニストから厳しい批判を浴びてきました。ディズニーも一時の低迷期を経てこうした批判に対して自覚的な作品を発表するようになり、かつての保守的なイメージを打ち破る挑戦的な作品も多く世に送り出されています。中でも「やりすぎ」にすら思える作品が今回紹介する「魔法にかけられて」です。

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魔法にかけられて」は、おとぎの国のプリンセスがひょんなことから現代のニューヨークにやってきてしまうファンタジー映画です。ディズニーが「白雪姫」から続くプリンセスの物語を愛と皮肉たっぷりにアレンジしています。「いつまでも幸せに過ごしましたとさ…」なんてことあり得ないのだという、かつてのディズニー・プリンセスに真っ向から挑む内容になっています。

冒頭から「やり過ぎ」なプリンセスのパロディに爆笑します。動物とおしゃべりしたり、シュレックっぽいトロールと戦う王子様とプリンセス・ジゼルがひと目で恋に落ちたり、突然歌が流れ出したり。これでもかと「プリンセスあるある」をぶち込んでいます。ちょっと心配になるぐらいですが、楽曲は全く手を抜いておらず、あいかわらずハンパじゃないクオリティの高さです。一度聴いたら忘れないメロディ。「真実の愛のキス」は特に素晴らしいですね。大好きな曲です。

また、現代パートに入ってからもジゼルの過剰なテンションとお花畑っぷりとまわりの人間の冷めた感じのギャップが最高です。「プリンセスあるある」は現実の世界でやったらとんでもないホラーになりかねないんですね。ジゼルが歌をうたって「森のお友だち」を呼び寄せてみんなでロバートの家のお掃除をするシーンは、怖すぎて引いてしまいます笑 アニメならまだしも、実写でやられると、家の中で鳥やネズミがドタバタしているのは恐怖でしかありません。わざわざゴキブリを出すあたりも悪趣味ですね。なかなかにやりたい放題です。

ですが、ジゼルのピュアさは、単なるギャグで終わりません。しだいにスレた現代人の心を癒し、変化をもたらしはじめるのです。そして、おとぎ話を否定されて育ってきたモーガンに夢を与えます。ジゼルのまっすぐに人を愛し、疑うことを知らない純粋な心が、ロバートの人生の選択にも影響を与えます。冒頭から「お花畑」の否定で入りながら、愛を信じることの大切さとプリンセスの物語の価値を再度認識させてくれるのです。

魔法にかけられて」は、少々度を越しているようにすら感じられるプリンセスのカリカチュアを織り込み、過去作へのカウンターとしつつも、ディズニー・プリンセスのエッセンスを抽出して、本当の意味で現代にも通じる哲学を主張しています。私たちの誇りはここにある!と。単なる否定に終わらないのです。夢見る女の子との決別の物語でありながら、人を信じて諦めなければ、自分でより良い人生を掴むことはできるのだという再解釈が行われているのです。ディズニーはいつだって夢をくれます。

ただ、一方で「男と女が結ばれて幸せな家庭を築く」というオチに変化はありません。ディズニー・プリンセスを皮肉ってはいるけど、基本的な原型は壊していないんですね。その定型の破壊に関してはすでに「ムーラン」等があるらしいのですが、まだ見ていません。最近では「アナと雪の女王」や「モアナと伝説の海」も異性愛に深く立ち入らない内容になっていますね。その点に関してはディズニー・プリンセスの歴史を概観した記事をいつか書きたいと思います。

「アリー/スター誕生」感想:ブラッドリー・クーパー、主役を乗っ取る

こんにちは。じゅぺです。

今回は「アリー/スター誕生」の感想です。

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「アリー/スター誕生」は、これまで3度映画化されている「スタア誕生」のリメイク作品です。1937年版と1954年版の「スタア誕生」ではハリウッドスターを夢見る女の子が主人公ですが、「アリー/スター誕生」の主人公・アリーは1976年版と同様、歌手志望の設定になっていて、ウェイターをしながらドラァグ・バーでパフォーマンスをしていたところをスター歌手のジャックに見初められるお話になっています。

本国では落ち目だったレディ・ガガの華麗なる復活と転身を宣言する作品として非常に大きな話題を呼んだようですが、ざんねんながら日本では同じく音楽映画である「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットに押され気味です。興行的に苦戦してるのは日本ぐらいじゃないでしょうか。

事前の評判も高く、アカデミー賞を始め賞レースにも絡んでくるとの声も聞いていたので、とても期待していたのですが、正直微妙な出来でした。ブラッドリー・クーパー監督の才能を賞賛するレビューも多く見ましたが、僕はあまり納得いきません。初監督作品ということでプロなりに評価するポイントがあるのかもしれませんが…。ちょっと映画の中で自分を主張しすぎているのではないかと思ったんですよね。

主人公はアリーのはずなのですが、彼を支えるジャックの存在感がとても大きい。少し大きすぎるぐらいです。単なる一般人のアリーがスターの階段を駆け上がっていくシンデレラストーリーを楽しみにしていたのですが、そこは案外あっさりしていて、注目を浴びる中で生じる理想と現実のギャップや、夫への感情の変化、心の葛藤はそれほど深く描かれません。そのせいか、彼女のせっかくのパフォーマンスも必ずしも映画的盛り上がりと結びつかないものになっていると思います。歌は歌としていいんですけどね。

一方、彼女を引き抜いた結果、嫉妬や自信の喪失からアルコールに溺れ、どんどんボロボロになっていくジャックにはたっぷりと尺を割いていて、彼のアリーへの愛情や生来の心の弱さ、兄へのアンヴィバレントな感情が丁寧に描かれています。ブラッドリー・クーパーの演技も気合が入っていて、間違いなく彼のベストアクトでしょう。しかし、だったらはっきりと最初からジャックが主人公の話として使ってほしかったです。レディ・ガガじゃなくて初監督・主演の俺こそが主人公なのだ!と他人をどかしてまで主張しているように僕には見えてしまいました。

でも、良かったところもたくさんあります。「A Star Is Born」のタイトルの出し方は、これから始まる物語がアリーというスター誕生の神話なのだという堂々とした宣言になっていました。カッコよくて思わず鳥肌が立ちましたね。

そして何よりレディ・ガガの歌唱力!アリーの才能が開花する「Shallow」のパフォーマンスは圧倒的でした。彼女が歌うたび言葉にできない感動が押し寄せてきました。「Shallow」に限らず、ジャックとのデュエットや愛する夫への想いを乗せたクライマックスのパフォーマンスもすばらしく、レディ・ガガ、いや、アリーにしかできないレベルに達していました。これだけで映画館に行く価値はあります。また、弾き語りからダンスを交えたスタイルに変わっていく様は、テイラー・スウィフトを思い出しました。すこし意識しているんでしょうか?アリーのポップ・スターへの転身はジャック目線で「ダサい」ものとして描かれていましたが、これは正直微妙なところです。あの下品な歌詞はどうかと思いましたが、はっきり否定的なスタンスを取ってしまうのも違う気がしました。まあ、ジャックはアリーの自主性を尊重して喉まで出かかった言葉を引っ込めるんですけどね。

やはり全体として見るとあまり好きな作品ではありません。ちょっと期待値上げすぎました。「ボヘミアン・ラプソディ」もそうですが、一度スイッチが入ると減点式で見てしまうので、自分でも楽しみの幅を狭めてしまっているな〜と思います。今年は改めたいところです。

「アメリカの夜」感想:映画がなければ生きられない人たち

あけましておめでとうございます。じゅぺです。

今年もよろしくお願いします!

新年1本目の記事は「アメリカの夜」の感想です。

いきなりですが、去年のお話から始めます。2018年の映画界も大いに盛り上がりましたが、中でも象徴的な作品に「カメラを止めるな!」がありましたね。本ブログでも公開当時紹介しました。

以下、「カメラを止めるな!」のネタバレも含みますので、未見の方はご注意ください。

「カメラを止めるな!」感想:文化祭的高揚感を共有する最高の劇場体験 - 映画狂凡人

カメラを止めるな!」は、テレビドラマのオモテとウラを描く二重構造の作品になっています。前半でドラマの本編を一気に紹介し、後半はそのウラで起こっていた撮影のドタバタを面白おかしく描く種明かしパートになっているのです。僕も映画館でたくさん笑いました。謎をたくさんばらまいておいて最後にぜんぶ回収してしまう構成も秀逸でとっても気持ちがいいですよね。

で、今回レビューする映画は「カメラを止めるな!」の後半パートに多大な影響を与えたであろう傑作「アメリカの夜」です。

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アメリカの夜」は、映画の撮影現場で起こるトラブルの数々を描くコメディ映画です。セリフを覚えられない女優、言うことを聞かない猫、色恋沙汰の絶えない役者陣…あまりにも曲者ぞろいでカオスな空間に思わず笑ってしまいます。監督役を本作の監督であるトリュフォー本人が演じているところも可笑しいです。あまりに情けなく振り回される監督の姿に、きっとトリュフォーも嫌なことがまくさんあったんだろうなと邪推してしまいます。

しかし、この「アメリカの夜」が映画への恨みつらみにまみれた作品かというと、そうではありません。むしろそこにあるのは映画への愛です。いたるところに映画が大好きなんだという気持ちが溢れていて、なんでもないシーンでも思わず涙が出そうになります。

おそらく、この映画に出てくる人びとはみんな映画がないと生きていけない人たちなのかもしれません。たくさんの人が集まって、なんとか決められた予算と納期の中で作品を完成させて、プロジェクトが終わればみんなバラバラになる。彼らの身体がそういうリズムに合わせてできている気がするのです。監督は現場の責任者としてトラブルのたびに振り回され、スケジュールが遅延すれば悪夢にうなされ、酷い目にばかり。役者たちも、今回はいったいどういう現場なのだろうと不安いっぱいの状態で顔合わせをし、やっとその空気に慣れた頃にクランクアップ。すごく大変だろうと思います。

けど、それでも頑張れるのはやっぱり映画が好きだから。そんな気持ちが伝わってきます。白眉はクライマックスの大集結の場面。スタッフの失踪や主要キャストの事故死を乗り越え、ラストカットを撮り終えた瞬間の達成感と解放感。いろいろあったけど、なんとかスケジュール通りに終えられてよかったねって。「カメラを止めるな!」もこれをやりたかったのだなと思いました。文化祭の打ち上げのような賑やかさと多幸感に包まれたまま、この映画は幕を閉じます。

最後まで残るのは「やっぱり映画って最高だ」という気持ちです。僕も「映画がなければ生きられない人たち」の一人なのだと思います。2019年もたくさん素晴らしい映画に出会って、しあわせな1年にしたいところです。今年もよろしくお願いします!

2018年の総まとめ:新作/旧作ベスト10の発表!

こんにちは。じゅぺです。

きょうは12月31日ということで年内最後の更新日です。1年の総まとめとして「2018年映画ベスト」を発表したいと思います!やっぱりこれを考えないと年が越せませんね。

今回は旧作洋画編/旧作邦画編/2018年新作編の3つに分けて考えました。それぞれ選考理由もつけて発表します。ちなみに数えていませんが旧作は200本以上、新作も100本前後は見たと思います。今年もなんだかんだたくさん見てしまいました。

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それでは早速、旧作邦画編から。

 

旧作洋画編

1位「ブンミおじさんの森

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タイの死生観を反映させた作品です。非常に難解な作りになっていて、特にラストの描写には度肝を抜かれました。生と死、それから時間の概念をちょっとずつ端っこから崩したいって、最後はすべてを曖昧にしてしまうような、新しい体験がこの映画にはありました。映像と音楽も繊細かつ立体的で、家にいながら自分もブンミおじさんの森にいるかのような感覚に陥ります。オールタイムベストの1本です。

 

2位「踊らん哉」
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フレッド・アステアジンジャー・ロジャースのペアの作品だったらダントツで一番だと思います。アステアの激しく、それでいて上品なステップにはうっとりしてしまうし、ロジャースの溌剌とした動きと、彼女を包むドレスの優雅な舞いは見るたびに美しいと思います。ダンスを披露するシチュエーションも、船の機関室やパーティー会場、スケート場に劇場の舞台と大変豪華です。何度も見返してる傑作です。

 

3位「ストレンジャー・ザン・パラダイス
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ジャームッシュ作品はいくつか見ましたが、これが一番好きです。つまらない日常が続くことに不感な男女3人をユーモラスに描きます。コミカルでありながら、長回しの場面になると独特のライブ感と緊張感を帯びてくるのも面白い。「退屈は永遠に続くんだぜ」と言いたげなラストも好きです。

 

4位「牯嶺街少年殺人事件」
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思春期のトゲトゲクサクサした感覚を思い出させてくれる点で、まず青春映画として最高。そして映像表現の観点から見ても、一つひとつのショットが完璧に決まっていて、もはや芸術作品に昇華されています。4時間近くあっても退屈しない絵作りなんて、常人にはできませんね。本当にエドワード・ヤンは天才だと思います。

 

5位「ショート・ターム」
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孤児たちと向き合う大人の葛藤や喜びが描かれています。子供たちの心の壁に触れることはとっても危険で体力のいる仕事だけど、そこを超えた時とっても素晴らしい景色が待っている。円環構造に鳥肌が立ちました。

 

6位「夏の遊び」
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「夏の遊び」感想:生への執着と死への恐れを捨てる、青春時代の終わり - 映画狂凡人

詳細は記事にいろいろ書きましたが、いま思い返すと、若い力にあふれる作品だったと思います。トゥシューズのつま先立ちキスからのバレエのステージは、映像の美しさと主人公の生命力の強さが相まってすさまじい感動を呼びます。

 

7位「自転車泥棒
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戦後不況に生きる親子のお話。1から10まで目も当てられないぐらい悲惨な境遇のお話ですが、それでも彼らを突き放さず、ちょっぴり人生に希望を感じさせてくれるような目線で描くところに、この作品の優しさと生きることへの信頼を感じます。食堂に入ってもロクなもの食べさせてくれないシーンが切なくて好きです。チーズでしたっけ?美味しそうでした笑

 

8位「勝手にしやがれ
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男と女の不協和音を描きます。考えてみれば、最初からあの結末は必然だったとわかっていたと言えます。ストーリーの内容もいいのですが、ショットごとの完成度の高さに惹かれました。最後の二人で痴話喧嘩をする場面、ぐるぐると長回しで追いかけ回すところが特に最高でした。

 

9位「不思議惑星キン・ザ・ザ
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旧ソ連の異色SF。終始超絶ゆるいテンションで進みます。ひたすら笑いました。それでいて当時の国際情勢を反映させた「平和への願い」も練りこまれていて、その切実なメッセージに感動しました。

 

10位「藍色夏恋
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自分もこの頃の台湾で青春してみたかったと思にました。淡く切ない恋心と複雑な友情を胸に自転車で町を駆け回るモンちゃんが爽やかです。劇場で見たのですが、正解だったと思います。

 

続いて旧作邦画編です。

 

旧作邦画編

1位「ハッピーアワー」

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「ハッピーアワー」感想:神戸の海が暗示する4人の未来 - 映画狂凡人

とにかく衝撃を受けました。オールタイムベストの一本です。5時間17分を贅沢に過ごしました。有機的な人間関係の変化を、ここまでじっくりと描き切るのは、もはや変態だと思います。映画と演技の概念も覆されました。

 

2位「台風クラブ
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中学生の幼稚性や暴力性、性/生への目覚めを生々しく描きます。外連味溢れるオープニングから引き込まれ、衝撃のラストには放心状態になりました。相米監督らしい独特の長回しが、台風を待ちわびる少年たちの興奮や熱気を生々しく伝えます。詳細レビュー記事は後日公開予定です。

 

3位「洲崎パラダイス 赤信号f:id:StarSpangledMan:20181230113016j:image

男と女の関係の不条理さを描きます。なんとなくテーマ的には「勝手にしやがれ」に近いかもしれませんね。側から見ればバカらしいけど、本人たちは至って真剣で必死に生きているのです。「境界」の描写が多様で好きでした。こちらも後日レビュー掲載予定です。

 

4位「夜は短し歩けよ乙女
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アニメーションが最高です。動きを見る喜びがこの映画にはあると思います。大学生の1年と四季の変化を一晩の出来事で語り切っていて、たしかに大学生活すぐ終わっちゃったな〜と思いました。今年公開される湯浅監督の新作も楽しみです。

 

5位「仁義なき戦い

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例のテーマ曲が流れるだけで血が沸騰するぐらい興奮します。人が死ぬ瞬間にワクワクできる映画は素晴らしいですね、やっぱり。ヤクザ映画は敬遠していたのですが、この映画をきっかけに良さに気づきました。ちなみにこちらも後日詳細レビュー掲載予定です(全然更新間に合ってませんね…)。

 

6位「女が階段を上る時
f:id:StarSpangledMan:20181230113144j:image「女が階段を上る時」感想:ママは階段を上る時なにを思うか - 映画狂凡人

ママさんの気持ちの揺れにミリ単位で共感できます。成瀬巳喜男の作品は本当に繊細で、どうしてここまで細かくリアルに人を描けるのだろうかと、毎回感心してしまいます。また、女性の悩みはこの頃から変わっていないらしいですねこの映画が先進的なのか、日本が古いままなのか。考えてしまいます。

 

7位「秋刀魚の味
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小津安二郎は「東京物語」の良さがわからず放置気味だったのですが、この映画ですばらしさに気づきました。「女が階段を上る時」は女の生きづらさを描いていましたが、「秋刀魚の味」は男の不幸も描いています。悲しさを戦争の歌で紛らわす様が切ないです。

 

8位「男はつらいよ 奮闘編」
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マドンナが軽度の知的障害を背負っているという、シリーズでも異色の内容になっています。そして僕の中では今の所ぶっちぎりで好きな作品です。寅さんはいつでもはぐれ者の味方なんですねえ。寅さんが笑いながら言う「死ぬわけねえよな!」に泣きました。

 

9位「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」
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「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」:夭折の天才の大傑作 - 映画狂凡人

戦争で夭折した天才・山中貞雄の作品です。いわゆる人情モノなのですが、今時はやりの「疑似家族」モノにもカテゴライズできる内容です。本当は優しいのに素直じゃない左膳が可愛いのです。

 

10位「マイマイ新子と千年の魔法f:id:StarSpangledMan:20181230113104j:image

この世界の片隅に」の片渕須直監督の作品です。心に傷を負った少女と空想の世界のシンクロに感動します。いかに別れの悲しみと向き合うかは永遠のテーマですが、子どもらしい目線から純粋な答えを導き出しています。

 

そしてついに2018年新作編です!悩みに悩んだ結果、このランキングにしました。ちなみにツイッターで発表したベスト10に抜け落ちていた作品があったので、少し修正を加えています。

 

2018年新作編

1位「きみの鳥はうたえる

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https://eigakyorozin.hatenadiary.jp/entry/2018/09/11/090000

今年のベスト映画は「きみの鳥はうたえる」です!これは言葉では説明できない体験でした。徹夜明けのまどろみの中に浸かるような心地よさが、全 3人の関係を貫いています。終わりを自覚していないのが「青春」なのだと気付かされます。ラストカットには鳥肌が立ちました。

 

2位「若おかみは小学生!
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https://eigakyorozin.hatenadiary.jp/entry/2018/10/02/120059

こちらは映画ファンの間でも非常に話題になっていましたね。僕も特集上映を含めて4回も見てしまいました。ひたむきに頑張り続けるおっこちゃんの姿に感動すると同時に、病的なまでに作り込まれた映像美に驚かされます。はやくソフトを買いたいです笑 

 

3位「ROMA/ローマ」

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「ROMA/ローマ」感想:極上の映像詩でつづる人生賛歌 - 映画狂凡人

昨日ご紹介した「ROMA/ローマ」も3位に入れました。映像的快楽を極限まで刺激される作品です。繰り返される「母」のイメージに、キュアロン監督が作品に込めた強い想いを感じます。劇場公開されたらもう一度見たいですね。

 

4位「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
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マーベル・シネマティック・ユニバース最大の問題作です。まさかのアベンジャーズ敗北、どころか世界の人口の半分が消滅というめちゃくちゃ過ぎるエンディングに(どうせこの後みんな復活するとわかっているのに)ショックを受けました。劇場が明るくなった後の観客の呆然とした顔をいまでも覚えています。

 

5位「レディ・バード
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一人の少女が「痛い」時期を終えるまでを描きます。誰もが思い出したくないあの頃の記憶をえぐられるはずです。一方で「レディ・バード」を見ながらクリスティンに抱く愛情は、そのまま過去の自分の肯定に繋がるのだと思います。グレタ・ガーウィグ監督の見る世界をもっと知りたいと思いました。

 

6位「アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル」
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トーニャ・ハーディングの波乱の半生を描きます。最近は伝記映画が流行りですが、この作品はあえて「主観的」な語り口を取っています。語り手をあえてスキャンダルの中心であるトーニャに託すことによって、「他人の人生を面白おかしく見せること=スキャンダル=物語」の構造を壊していく姿勢が面白かったです。

 

7位「スリー・ビルボード
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鑑賞直後は年内ベスト間違いなし!と思っていたのですが、2回目に見たら少し微妙に感じてしまいました。しかし、予想を裏切る展開の数々と、物事の二面性をひたすら皮肉に描き続けるマーティン・愛ドナーの脚本のレベルの高さには唸りました。あの開かれたラストはやはりことし屈指のエンディングだと思います。

 

8位「ワンダー 君は太陽

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生まれつき顔に障害を負ったワンダーくんと彼を愛する周りの人びとを描くヒューマンドラマです。単なる御涙頂戴かと思って挑み、見事に予想を裏切られました。ワンダーくん以外の目線でもドラマが進む形式になっていて、家族を愛するがゆえに「手のかからない子」になろうと親に甘えるのを我慢してしまう姉・ヴィアのエピソードはグッときました。みんなそれぞれに悩みや苦しみを抱えているんですよね。

 

9位「エンジェル 見えない恋人」
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「エンジェル、見えない恋人」感想:五感を刺激する官能的な映像美 - 映画狂凡人

姿の見えない少年と盲目の少女の恋愛を描くベルギー映画です。官能的な映像美が優れており、お互いの「欠点」を補い、愛し合うというワンアイデアを豊かなイマジネーションで広げているのに唸りました。エンジェルたちと同じように五感で感じ取ることを求められる作品だと思います。

 

10位「響 -HIBIKI-」
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「響 -HIBIKI-」感想:自分の「限界」を知ること - 映画狂凡人

こちらは欅坂46のセンター・平手友梨奈の初主演作。普通のアイドル映画だと思うなかれ。結構スリリングな青春映画になっています。こちらも期待を超えてきた作品ということで入れました。実は主演の平手友梨奈よりも彼女の親友であり、才能に嫉妬するライバルを演じるアヤカ・ウィルソンの存在感が大きい作品でもありました。

 

以上、2018年の映画ベスト10でした。こうやって並べて見ると、自分の趣味が全部バラされているようで少し恥ずかしくもあります笑 来年はこれらを超えるもっと素晴らしい作品に出会いたいですね。来年もよろしくお願いします!良いお年を〜。