映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「顔のない眼」感想

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顔のない眼、みた。事故による火傷で美貌を失った娘のため、父・ジェネシュ博士は若い女性を相次いで拉致し…。おぞましくも異様な美しさを放つクリスチーヌの白いマスクは本作の象徴。ドキッとさせられる直接的描写も多く、見応えあった。ラストの選択の開放感がよかった。

クリスチーヌの登場場面、マスクをつける前の彼女はベッドに伏しているので、事故後の顔は出さないのだろうと思っていた。しかしそれが前半の重要な場面で突然強烈に映し出される。そのほかにも顔の皮膚を切り取る手術、クライマックスのジェネシュ博士など、出し惜しみせずパンチの効いた絵を見せる。

想像よりもホラーでした。若い女性が標的になるのも、この手のジャンルのセオリー通りだと思う。ペドロ・アルモドバル監督の「私が、生きる肌」は本作の影響を受けているのだろうか。なんとなく、あの白いマスクにフェチズムを感じなくもない。

「20センチュリー・ウーマン」感想

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20センチュリー・ウーマン、超絶大傑作。シングルマザーと息子、そして彼を見守る二人の女性。どれだけ愛していても想いは届かない。すれ違い、ぶつかり合う。母と子、男と女、ボガートとパンク。見える景色は違うけど、幸せになりたい、幸せになってほしいと願うのは誰でも同じ。愛おしすぎる物語。

ガタがきた古い車、ボガートの「カサブランカ」、あちこちに修理が必要なアパート。ドロシアは40年代の趣味に生きている。一方のジェイミーやジュリー、アビーはパンクを聴き、「カッコーの巣の上で」を見て、女性の解放を語る。散りばめられたアイテムに20世紀の歴史と彼らの関係が映し出される。

多感な15歳のジェイミーと、彼を見守る3人の女性。同じものを見て、触れて、聴いたとしても、まったく異なるものを感じている。「ウーマン」のタイトルにある通り、当時のフェムニズムの発展が土台にある作品だが、より一般的に捉えるなら、それは母と子であろうと「他人」であるという事実だろう。

誰かにとっては最悪で悶々とした時間だったとしても、その場にいるほかの人には、嫌なことから逃げられる、心安らぐ場であったりする。片方はそれを変えようとし、もう片方は今のままでいいのだと反対する。人と人が交わることはこんなにも幸せで、そして残酷なことなのだと、改めて気づかされる。

なによりこの映画は回想で、すべて「あの頃はこうだった」というお話。もう戻ってこない、記憶の中にとどまる失われた時間、二度と会うことはないであろう人たちとの思い出なのだ。それでも振り替えざるを得ない。美しく愛おしい過去のはずなのに…いや、美しいからこそ、切ない余韻が強く残る。

ラストカットの母親のあの幸せそうな、自由人らしい解放感に満ちた笑顔。そしてどこまでも広く続く、夕陽に照らされた海。おそらく彼自身は直接見ていないであろう、息子がその景色を想像していること。2時間の語りの最後にあの場面。これはもう愛でしかないと思う。ただ愛おしいという気持ちなのだ。

「殺人者の記憶法」感想

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殺人者の記憶法、みた。認知症の元殺人鬼 vs 現役殺人鬼。先を読ませないミステリー。主人公が「信頼できない語り手」であることがわかってきたあたりから、お話はがぜん面白くなる。記憶と空想の混濁の末に明らかになる男の罪。語りが若干もたつくが、「メメント」的なカオスに最後まで引き込まれた。

「パディントン2」感想

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パディントン2、みた。財宝の秘密が隠された絵本を巡る騒動を描くシリーズ第2弾。人にやさしく親切にしていれば、その分だけ誰かがしあわせをおすそ分けしてくれるもの。しゃべるクマもコワモテの囚人も、見た目ではなく心を見よう。殺伐としたこの時代に当たり前だけど大事なことを教えてくれる傑作。

ストーリーが丁寧。みんなが期待するゴールに、ちょっと意外な道をたどりつつ、しっかり着地してくれる。刑務所のくだり、特にナックルズと心通じ合うところは、やはり感動してしまいますね。コミカルに描かれつつも、パディントンってかなりひどい目にあってるんだけど、人の善の心を信じたくなる。

人間の卑劣で恐ろしい顔、いまこの世界で起こっている恐ろしい出来事を否応なしに連想させる騒動。そういう要素をブラックに練りこみつつも、しかし、人間の優しさや、しあわせを分け合うことの美しさ、誰かと心通い合う瞬間の喜びがこの映画にはあふれている。みんなにハッピーになる資格がある。

「ワイルド・スピード スーパーコンボ」感想

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ワイルド・スピード スーパーコンボ、面白かった。マリオカート級の仰天ギミックあふれるアクションの連続!冒頭の登場シーンから対照的なホブズとショウ。屈強なハゲが憎まれ口を叩きながらイチャイチャするチャーミングな2時間。安心して見られる「過激さ」だ。序盤の会話劇のかったるさが残念…。

「アルキメデスの大戦」感想

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アルキメデスの大戦、みた。数学の力で戦争を止めようとする一人の男の奮闘を描く。理性で人間の業に勝てるのか。組織の論理、支配欲、エゴへの抵抗…。「完ぺきな答え」がすべてを解決に導くとは限らない。戦艦大和が当時の大日本帝国にとって、そして現代の日本にとって何を意味するのか。良作。

戦艦大和の意味は様々に解釈できる。陸海軍の対立から混乱した日本の政治、その帰結としての敗戦の象徴。何より、みんなが忘れたがっている「国民こそ侵略戦争を望み、勝利を求めていた」という事実。結論から言えば櫂とてその流れには抗えない。そして日本人はまた同じ過ちを繰り返そうとしている。

言い換えれば、戦艦大和は「破滅」の象徴でもある。エリートたちはこれを作れば日本は確実に後戻りできなくなるとわかっていながら、国民の感情を盾にし、みずからのプライドや美学、立場を優先した。中心にあるのは無責任の空洞。すべて冒頭の地獄絵図につながる。悲劇を止められない無力感。

思えば、アメリカ行きが決まっていた櫂が、日本に残り戦艦大和の見積もり算出に取り組んだのは、鏡子さんのいる日本が焦土と化した光景が頭にちらついたからだった。数字の美しさに惚れ込み、真実や正解にこだわり続けた徹底的に「論理」の男が、血の匂いを嗅ぎ、「感情」に動かされた。

映画の終盤、櫂はふたたび「論理」と「感情」の間で揺れることになる。その決断は映画において非常に重要なのだが、彼の葛藤こそ、まさしく歴史が証明してきた日本の病理であると解釈することもできる。政財官の癒着、貧富の差の拡大、国際情勢の不安定化…日本はまた同じ時代に突入しようとしている。

「リトル・マーメイド」感想

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リトル・マーメイド、みた。アリエルの「パート・オブ・ユア・ワールド」に涙する。人間が落としていったふしぎな道具を集めては愛で、地上の世界を想う。トリトンの治める美しい海も、彼女には狭すぎるのだ。父の支配を乗り越え、勇気ある行動で未来を掴んでいく。すてきなお話でした。傑作。

「白雪姫」を見たときも思ったけど、ディズニーにしか押せない心のスイッチがあるんじゃないかと思う。ディズニー・プリンセスを見たときにだけ感じる心の震えみたいなものがあります。「いつか王子様が」も「パート・オブ・ユア・ワールド」も。そうそう、これこれ!って。音楽の力は偉大だ。

子どもの頃の自分はこの映画をどんな気持ちで見ていたんだろう。もう忘れちゃった。海底の賑やかなダンスシーンはとても楽しい。お遊びがたくさんあって、一度では味わい尽くせない。一つひとつの生き物のモデルを探すのも面白そう。アスランが巨大化したときはどうやって倒すんだ?って真剣に驚いた。

そしたら半分事故みたいな死に方していたので笑ってしまいましたが。そして、アリエルだけでなく、父トリトンの葛藤も描かれている。威厳ある王としてのプライドが、娘への愛情とぶつかって、彼を混乱させている。父の定めた海の掟を破って人間に恋するアリエルは、父権主義への抵抗の象徴でもある。