映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「星屑の町」感想

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星屑の町、みた。売れないムード歌謡グループと歌手を夢見る少女。「あまちゃん」の東北を舞台に、上京するもショウビズに翻弄された愛を演じる…なぜこの物語がのんの劇場復帰作に選ばれたのか?を考えてしまう。やはり彼女がスクリーンの中を動き回るだけでワクワクしてしまう。ちょうどいい面白さ。

のんは歌もうまいんだな〜。前半のクライマックスである控室での口論がいかにも舞台劇っぽく、名バイプレイヤーたちの丁々発止が楽しいのだが、残念ながらそのあと失速してしまう。これ着地するのに尺足りなくない?と思ってたら案の定だった。広げた風呂敷を畳むのに必死で、愛の成長が曖昧に…。

弾き語りするのんがとてもよかった。意外とカッコいい役も似合うのでは?と思いました。輝いてたなあ。もっといろんな映画で見たい。大平サブロー小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、ラサール石井有薗芳記…コーラス隊の面々も味わい深い。後半の雑さが非常に悔しいけど、のんの再出発を応援したい作品。

「劇場版 おいしい給食 Final Battle」感想

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劇場版 おいしい給食 Final Battle、みた。ことしベスト級に好きな作品!給食マニアの教師・甘利田は、独自のアレンジで給食に挑む生徒・神野と日々給食バトルを繰り広げていたが…。ドラマ版未見。ふたりの水面下での戦いがバカバカしくて大爆笑なのだが、後半問いかけられる〈給食とは?〉に泣く。

孤独のグルメ」よろしく黙々とメニューを分析しながら食べる甘利田がすごく良い。ソフト麺一気に入れると汁が器から溢れるとか、レーズンパンのおかずにレーズン入った豆の煮物の謎食べ合わせとか、給食あるあるがメチャクチャ面白い。彼の〈常道〉を突き崩す神野の独創的なアレンジも最高。

それに全力で悔しがる甘利田!市原隼人のコメディセンスを初めて知る。みんなでいただきますのときに流れる校歌(給食がテーマ)にノリノリで踊るのも笑える。居酒屋の焼き鳥に感動したり、何にでも全力でリアクションする素直さが愛せる。ヒロインの武田玲奈が相変わらず可愛い。国語教わりたい。

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後半それなりにシビアというかほろ苦いお話に転調するのだけど、それがまた真摯に〈給食とは?〉を考えさせる内容になっていて、とても良いんですね。また給食を食べたくなるなあ。結構不味いメニューも多かったけど。好きな献立が時々あると朝から楽しみにしてたなとか。いろいろ思い出します。

甘利田=市原隼人と御園=武田玲奈の掛け合いもバツグンに良い。武田玲奈って意外に器用に演じられるタイプなのでは?コメディエンヌとして楽しみ。三島由紀「潮騒」をめぐるやり取りが好き。そしてラストカット。これがすごく良い。きっと神野くんはこの光景をずっと忘れないだろう。超絶大傑作。

「ハッピー・デス・デイ」感想

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ハッピー・デス・デイ、メチャクチャ面白かった!女子大生のツリーは何者かに殺される誕生日を繰り返するタイムループにはまってしまい…。主人公がなかなか性格が悪いのだが、これだけ酷い目にあってると応援したくなるし、なんなら愛嬌を感じ始めるのが面白い笑 オチもひねりが効いててグッド!

鈍感で自己中だったツリーが殺人鬼に襲われる悲劇を繰り返す。じつは彼女の成長はそこにはなくて、殺されるまでに至る日常をなんども経験することにある。いかに自分がイヤな奴だったかってのを突きつけられるわけですね。そこまでされないと気づかないんかいってとこも含めて笑える。

だって本当に最後まで気づかないんだもんなあ。しかし、かといって「良い奴」になることがゴールかというとそうでもないのがこの映画の憎いところ。タイムループものではあるが、話が進むごとにシチュエーションも変わっていく。だから飽きもこない。コンパクトで見やすい。大大大満足!

「もみの家」感想

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もみの家、みた。心に不安を抱えた少女が農村の自立支援施設で成長していく様を描く。出会いと別れ、ひとの優しさに触れること、そして生命のサイクル。このテーマ設定の時点で自明ではあるが、思春期の鬱屈とした感情が〈田舎の美しい自然〉と〈ひとの温かみ〉で浄化する筋立てはどうも…。

とはいえ主演の南沙良バツグンの素晴らしさ。うつむきがちな少女の役がよく似合う。勝手に放り出したお父さんに怒ったり、獅子舞の練習に汗を流したり、おばあちゃんに懐いたり。きょうだいのように応援したくなる。そして泣きの演技が毎回良い。とても美しい。今回は鼻水たらしませんでしたが。

サブキャラは全員記号的すぎる。もうちょっとどうにかならなかったのか。農村の自立支援施設という設定も相まって胡散臭さすら漂う。しかし、やはり「お母さんお腹を痛めて産んでくれてありがとう」は今どきどうなのか。別にその考えは否定しないけど、2020年に改めて描くべきテーマだとは感じない。

「レ・ミゼラブル」感想

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レ・ミゼラブル、みた。パリ郊外の犯罪多発地域の現実。縄張りを競うように〈市長〉やムスリム同胞団、BACたちが睨みをきかせ合う、この緊張感!たびたび一触即発の空気になるが、生きた心地がしない。みんなの諦めと怒りと憎しみがギリギリのバランスで保たれている危うさ。とても疲れた…。

正直、誰にも気持ちを重ねることはできなかった。あんな世界で生きていける気がしないけど、たしかに実在するわけですよね。相互不理解がここまで深刻に進んでいるのかと。脅しと暴力がいちばんコストのかからないコミュニケーション手段になってしまっている。

このまま無関心と妥協で突き進んだら、その先は地獄だ。そう簡単に他人の優しさを信じられない世界になっている。だれも耳傾けてくれないんだったら、大人しくいる必要なんてないじゃんと。「ホントはダメそうだけど、とりあえず今はなんとかなってるよね」という認識にNOを突きつけてくる。

「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」感想

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三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実、超絶大傑作!1969年の伝説の討論会を紐解く。左翼と右翼の両極によるスリリングな戦いは、意外な結末を迎える。三島由紀夫の懐の深さ、そして学生たちのギラギラとした目の輝き。たばこの煙が充満した講堂の〈熱情〉に抱く憧れはノスタルジーなのだろうか。

東大全共闘きっての論客・芥正彦の繰り出す議論は少々抽象的で、結局なにが言いたいんだ?議論のための議論になってない?と思わなくもないのだが、彼の挑発にたいする三島由紀夫のリアクションが面白い。まわり全員敵のはずなのだけど、本当に楽しそうにしているのだ。

三島由紀夫共産党革命に備えて結成した組織・楯の会のメンバー(◯期生ってアイドルみたいだ)や、東大全共闘の中心メンバーへのインタビューも興味深い。とくに討論会の司会。けっきょく彼らに話を聞きながら、このムーブメントの総括をしきれていないのは、ちょっと食い足りない。

そもそもの討論会の中身が面白すぎるから、手を加えなくても良い感じに仕上がってしまう。だからドキュメンタリーとして素晴らしいというと、果たして?ではある。しかし平野啓一郎内田樹の解説は分かりやすく、抽象的な言葉を駆使して展開される三島たちの議論の理解の手助けになった。

三島由紀夫の思想は相容れないところもあるけど、学生だからと手を抜かずに真摯に向き合う姿勢、確固たる信念をもって突き進み、自己を表現する姿に惚れざるを得ない。ホンモノのカリスマだったんだなあと思った。

「男はつらいよ 寅次郎と殿様」感想

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男はつらいよ 寅次郎と殿様、みた。嵐寛寿郎の演技を初めてみた。これはまさしく〈殿様〉としか形容しようがない。面白いキャラクターだ。ここ数作の中ではマドンナの存在感が薄い。そして今回も振られかたが切ない(あんまり寅さん乗り気に見えないが…)。おいちゃんの「寅、一杯やるか」が優しい。

寅さんとの別れの場面を直接描かず、さくらに語らせるパターン、これまであまりなかった気がする。前作「寅次郎純情詩集」が柴又駅での別れだったし、なんども描かれているからこそ?扉の向こう側に寅さんの寂しそうな表情が目に浮かぶ。そういえば今回は寅屋のみんなも寅さん帰宅にウェルカムモード。

だいたいいつも悪口で盛り上がってるところにタイミング悪くやって来るものだが。しかし、今回は拾ってきた野良犬に「トラ」と名付ける失態。流石に寅さんが舐められ過ぎてて悲しくなってきた。「犬って呼ばれても仕方ない生き方してるだろ」って、明らかにおいちゃんも言い過ぎである。

だからこそ、振られた後においちゃんが「飲むか」と声を掛けたのが優しくて好きなのだけど。階段をヨロヨロと転げ落ちる寅さんの反復。最初と最後で「疲れた」の意味が違う。毎度の事ながら、振る側が一切好意に気づかず、勝手に寅さんが傷つくだけなので、非常にエコだと思う。