映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「魚座どうし」感想

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魚座どうし、みた。心が壊れた母と暮らすみどりと、宗教に没頭する母に連れ回される風太。ふたりの運命が交錯する瞬間…。大人が怖い、とにかく怖い。ヒステリックな先生、怒鳴る中年、ふたりの母親。子どもの世界ってこんなに空気淀んでたっけ。とにかく息が詰まる。そしてラスト!下半期ベスト候補!

水槽の中の金魚を掴み取るみどり、釣り上げた魚に爆竹を詰め込んではしゃぐ風太。そこに命の重みはない。突発的な暴力。母親は死んだ目をして皿を割り続け、体育館の床に長縄が叩き付けられる音が響く。飛べない限り帽子は赤のまま。地獄はいつまでも続くのである。そんな絶望が全編に染み渡る。

「許された子どもたち」のヒヤッとした空気に近いものもあるが、本作の主人公は小学4年生だ。より幼い。ゆえに世界を見通すその目は曇りなく素直に現実を理解している。もう終わりなんじゃないか。そう思うぐらい空気が張り詰め、限界まで来た瞬間、突然暴力が訪れ、不思議な希望と共に映画は終わる。

正直、あの感覚は言語化できない。ざらっとしたのどごしだけが残る。変なもの飲み込んだような、いや、でもたしかにこれは求めていた味でもあるはずだと。快感でもあった。背後に流れるジャズもいい。とにかく濃厚な30分。できれば配信ではなく劇場で見たかった。超絶大傑作!

「あみこ」感想

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あみこ、みた。キラキラしてない青春映画。常に苛ついているあみこ。アオミ君と前に話してから半年経った…と指折り数える。Radioheadで盛り上がった彼はどこへ?と。あのモヤモヤを俺もよく覚えている。自由なはずなのに息苦しい。ぐっと力の入ったあみこの目つきが強烈。途中のゆるいダンスに笑う。

ゲリラ的な撮影が面白い。TSUTAYAだ!池袋駅だ!っていちいちテンション上がった。このインディーズならではの手触りがとてもいい。前半、1年間のほとんどが教室で展開される。対して終盤は池袋。路上で叫ぶ男の人にあみこが同調する場面、すごく楽しそうなのが印象に残っている。

ベッドの上でアオミくんに対峙する。とても〈PURE〉だ。しかし温めていた気持ちは簡単に裏切られる。まあ、その程度なのだろう。期待は幻滅に変わる。しかし、最後のパンチと駅のプラットフホームに立つあみこの背中に清々しさを覚える。やっと自由になれた。少女は解き放たれたのだ。

個人的には世に絶賛されるほどの強烈なパンチは受けなかったんだけど、そこらへんのインディーズ映画とは一線を画すというか、圧倒的にハイクオリティであることは確かだった。はやく長編撮ってほしいですね。完全に余計なお世話だけど、どんどんハードル上がってる気がする笑

「ディア・ハンター」感想

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ディア・ハンター、傑作!これ見ると「命さえあればいいことあるさ」なんて軽々しくは言えないなあと思ってしまう。戦争は人を変える。大好きだった鹿狩りも、仲の良かった友人たちとの会話も、もはやベトナムへ行く前とでは全然違う。賭場のニック=クリストファー・ウォーケンの目が忘れられない…。

冒頭1時間近く結婚式の場面なので「これベトナム行くんだよね?」と思ったけど、ここのタメが大事だった。平和なアメリカの田舎からいきなり爆撃、地下壕で焼き殺される女性、捕虜にロシアンルーレットをさせて喜ぶベトコン。この世の地獄だ。マイケルが仕掛けた一か八かの勝負の緊張感!吐きそう。

ヘリコプターで救助するくだり、デニーロたちがしっかり生身でぶら下がってるけど、これ、どうやって撮ったんだろうね?ベトナムの場面はクライマックスも含めて生きた心地がしなかった。賭場の対峙はなあ。なんとなく結末が読めるだけに虚しい。最後の乾杯に「誰がこの戦争で幸せになった?」と。

「呪怨:呪いの家」感想

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呪怨:呪いの家、みた。あとからじわじわ迫ってくる怖さ!振り返ってみれば平成初期は猟奇的殺人事件の続く〈呪いの時代〉だった。実在の事件をモデルにしているがすべて被害者は女性。父なる者への嫌悪も見え隠れする。シンプルだけど人間って何しでかすかわからないっていう禍々しさ、これに尽きる!

ただ俺が三宅唱に感じていた魅力は残念ながらこのドラマにはなかったかな。人と人のあいだに流れる時間の心地よさ。これはホラーではやっぱり難しい。特に今回は断片的なエピソードをつなぐ構成だし。あの家の間取りも活かせているような活かせていないような…。終盤のザク切りの編集は好き。

レイプシーンや女性の性の扱いが見世物的であるという批判は正直難しいところ。俺はそういう意図では捉えなかったし、見る人によるのではと思うが、女性キャストがハマりきっていないのはたしか。荒川良々井之脇海柄本時生などはよかったが。妊婦役はもっと〈普通の人〉の方が生々しかっただろう。

こないだ「ワンダーウォール  劇場版」のパンフレットで渡辺あやが主演キャスト陣を「とても色気のある演技だ。何を考えているのかもっと知りたくなる」と評していて、三宅作品の面白さもここだったよなと。1話30分の短尺のせいか語り部の小田島=荒川良々以外のキャラが見えにくい。これは残念。

ネタバレになるので列挙は控えるが平成史に血生臭い傷を残した猟奇的事件の数々が本作のモデルになっている。しかし記憶がまだまだ新鮮なこれらの事件にたいし、まだ僕ら観客は距離の取り方を掴みきれていないのではないか。エンタメとして〈全世界同時配信〉するにはまだはやい可能性はある。

ホラー映画の中ではたくさん突拍子も無いことが起こる。しかしそれは〈呪い〉の力で片付けられる。一方、現実は違う。人間は誰かに操られるでもなく自分の意思で女性を手篭めにしたり、残酷なやり方で殺害したりする。他人はみんな薄っすら気味が悪い。突然あなたを刺したりするかもしれない。恐怖。

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現実の事件を扱うことで、人間の根っこにある狂気を掘り下げていく。その手法が安易だという批判もあるかもしれないが、すごく効果的ではあると思う。だって映画では〈呪い〉で片付けられてる出来事が、本当にこの日本で起きてるんだから。それを〈呪い〉で説明するんですか?と。

後からじわじわくるって言ったのは、毎回見終わった後モデルになった事件を調べる過程で湧き上がってくるものだから。それってドラマじゃなくて事件が怖いんじゃね?って言われちゃうかもだけど。あの禍々しい〈呪い〉が作り手の悪趣味でもなんでもなくて本物の人間が真面目にやったことなんだと。

だからやっぱりそれを楽しんじゃうのは違うんじゃないかなって葛藤も当然自分の中にはあります。アイドルを追いかけつつアイドルカルチャーってどうなのかなと自問自答することにも似ている。でも俺、基本的にゴシップとかスキャンダル好きなんですよね。本当にしょうもないんだけどさ。

「のぼる小寺さん」感想

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のぼる小寺さん、みた。ボルダリングに励むクラスメイトの小寺さんとそんな彼女を見つめる近藤。小寺さんがのぼる。ひたすらのぼる。その姿に僕たちは勇気をもらう。がんば!と背中を押してもらう。工藤遥の晴れやかだが独特のオーラと、伊藤健太郎の鬱屈感。最後の落とし方にやられた!きゅんきゅん!

進路希望表のくだりで「ブレックファスト・クラブ」的展開になるのかと思いきや、まったくそんなことはなく笑 小寺さんを中心にひろがる人間模様をスローに描く。意外と交わらないんですよね。そこが面白い。キャスティングも非常に好み。吉川愛のスレつつも素直な感じ、ツボを抑えてる笑

小野花梨はどの作品に出ても存在感がバツグンだ。あの首のくねくねした動きが好きなんだけど、わかる人いるでしょうか。ああいう可愛い子からひねくれたいじめっ子まで、本当に役の幅が広い。先輩ふたりもいい雰囲気なんですよねえ。初めて見る俳優さんだけど、インパクトがすごい。特に坊主の両角周!

工藤遥元モーニング娘。なんだね(知らなかった)。ちょっとハスキーな声がチャーミングで、ふわっとした小寺さんのキャラが活きる。伊藤健太郎は「惡の華」でも思ったけどあの中学生みたいな童顔に意外とガッチリした体格のアンバランスさがいい。力を持て余してる。だから発散した時が強い。

「ストリート・オブ・ファイヤー」感想

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ストリート・オブ・ファイヤー、傑作!ケンカ、ロックンロール、時々キスと爆発の94分。殴り合うけど誰も死なない、少しゆるっとしたテンポは同年公開の「ゴーストバスターズ」を思い出す。追いかけて、隠れて、逃げて、最後に向かい合う高架下。これは砂と埃にまみれた裏路地の「カサブランカ」だ。

マイケル・パレダイアン・レインウィレム・デフォー。みんな初々しい!これは西部劇のフォーマットなんだな。ゴロツキたちは馬からハーレー・ダビッドソンに乗り換えた。ビリーの劇場はウエスタン・サルーンであり、高架下の果たし合いは荒野の決闘だ。そしてクライマックス!ハードボイルド!

赤いオープンカーに乗って旅に出る後ろ姿は「カサブランカ」の「ルイ、美しき友情の始まりだな」にどうしても重ねたくなる。俺はバスに乗って逃げ回るくだりが好き。警官に賄賂渡した意味皆無の狼藉も面白い笑 そして「Tonight Is What It Means to Be Young」のラスト。切なさより熱さが勝った。

「ストレンジャー・シングス」シーズン3 全話感想

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ストレンジャー・シングス シーズン3、全話完走!いちばん面白かった。シーズン2が流し見だったので最初追いつくのに時間かかったが…エルとマイクの恋の行方、町に忍び寄るソ連の影…などなど常に4つぐらい話が同時進行だからホントに忙しい笑 エルとナンシーがメチャクチャかっこいいのですよ。

マイクたちオタク少年たちのワチャワチャ感、相変わらずいい。しかし、いつまでも秘密基地で遊んでられない。「俺のこと仲間外れにする気かよ!」と怒るウィルの気持ちもわかる。つねに時は流れ、人生は変化していく。このシーズンの中心テーマでもある。対してちょっと大人なエルとマックス!可愛い。

このドラマがうまいなあと思うのは、目線が子どもだけに定まらない点。ジョナサン&ナンシーと、スティーブ&ロビンのお兄さんお姉さんコンビ。若者の目線。子どもたちをぐいぐい引っ張っていく。機転は利くし頼りになるけど、振り回されがちなところも。そしてジョイスとジム。大人、そして親の目線。

なんだかんだ彼らはずっと子どもたちを心配している。彼らに背負わせてはいけないとも感じている。ちゃんと責任感ある大人が出てくるというのは心強い。子ども、若者、大人。それぞれの〈らしい〉感性と発想で町の危機に立ち向かう。無謀に突っ込んでみたり、作戦を立てたり、はたまた職権乱用したり笑

今回、ショッピングモールがメインの舞台になるが、これがとても良かった。80年代ハリウッド映画の定番。ここに様々なギミックが仕掛けられていて、ダスティンやロビンの出会いから、クライマックスの壮絶な戦いに至るまで、あれもこれもと楽しいドラマが盛りだくさん。とても満足。シーズン4はやく!