「14歳の栞」感想
14歳の栞、みた。埼玉のとある中学二年生の学級を三ヶ月間追ったドキュメンタリー。35人全員を主人公にしている。クラスが好きな子もいれば、部活に打ち込む子、居場所は家にある子もいる。自分はどうだったかなあ。しかし、安易に「エモ」に誘導するような演出に鼻白む。素材のままでよかったのに。
ドキュメンタリーの作り手ではないのであくまで素人の感想だけど、この題材を扱うのなら、三ヶ月という期間はやはり短かったのではと思う。35人を同時に追うとなると難しいのだろうか。撮る側と被写体の距離感が縮まっているようには見えない。何かが起こるのを待つには三ヶ月って足りない気がする。
明らかに子どもたちよりも大人の方がカメラを意識していたのは笑った。35人全員を特集することで、各々がみずからの経験や思い出への振り返りを促す作りにはなっているものの、やはり作品としては散漫とした印象を受ける。クラス全体から何かを見出すより、その空間の雑多さを愛でているというべきか。
個人的に音楽がずっと鳴ってるドキュメンタリーって好きじゃないんですよね。開き直って恣意的に観客を誘導しすぎるのは、誠実じゃないんじゃないかなと。14歳の少年少女のリアルを映すという、非常にセンシティブなコンセプトで映画を撮るならばなおさら。そこはちょっと残念だった。
ただ、やはり思春期の子供たちを追うドキュメンタリーだけあって、そこまで踏み込んでいいの?とヒヤヒヤするような場面もあり、そこは楽しかったです。バレンタインデーのくだりは微笑ましいけど、ホワイトデーまで追いかける?とか。先生への愚痴は本人ショックだろうな、とか。
「僕が跳びはねる理由」感想
僕が跳びはねる理由、みた。自閉症の日本人少年によるエッセイをもとにしたドキュメンタリー。彼らがどんな世界に生きているのか。そして、なにを想っているのか。俺は自閉症を根本的に誤解していた。理解する気がなかった。観賞後、見える景色がガラリと変わる映画。これは必見ですよ!勉強になる。
正直、自閉症の人が電車のおなじ車両で大声出したりしてると、ちょっと怖いなあと思うこともあった。そういう態度は単なる無知から来るものであったと、ここに告白せねばならない。彼らもまたコントロールできない自己に苦しみ、「普通」じゃない自分に不安を抱えている。それを知ってるか知らないか。
そして自閉症の子どもを見守り、助ける親たち。苦しみ、もがきながらも我が子に耳を傾け、理解しようとする姿に胸を打たれた。「彼にしか感じられない世界がある。一度でいいから自分もその世界を見てみたい」と語る父。これって愛がないと言えないことばだよなあ。
あと、自閉症の人たちが文字盤を使って想いを語る場面。すごかった。彼らはただ他の人だとおなじような表現の手段を持たないだけなのだなと。お互いに自閉症の幼なじみの友情は美しかった。ことばを交わすこともない。ただ一緒にいるだけ。それでも気持ちは繋がってるし、信頼し合ってる。
「騙し絵の牙」感想
騙し絵の牙、おもしろかった。社長の座をめぐり繰り広げられる権力ゲーム。戦場を軽やかに操る編集長・速水と、彼を見つめる部下の高野。こうやってド派手にエンタメしつつ、ちゃんと政治性や寓意を含んだ物語に仕上げるのは、邦画だと珍しいかも。終盤息切れするが、なかなか楽しい映画でした。
國村隼演じる大物小説家の絶妙な俗っぽさ。俺の中では結構ツボ。佐藤浩市もああいうダーティな役が似合うし、佐野史郎のああいう気難しい常時キレ気味オヤジの演技大好き。あちゃ〜ってとこもちょっと可愛げがある。宮沢氷魚や木村佳乃はイメージのままだが、求められた役をきちんとこなしている。
大泉洋は原作があてがきのせいもあってか、非常にハマっている。あの人の良い意味での摑みどころのなさが、速水という人間の胡散臭さとカリスマ性を盛り立てる。出版に対する情熱をもっと強調してくれるとキャラに深みが出たかなあ。あれだとジョーカーみたいな単なる壊し屋に見えなくもない。
あと松岡茉優。彼女が演じるキャラは観客目線に立ち、速水が引っかき回すストーリーを整えてくれる。クセ強めのキャラに囲まれ、バカバカしい権力闘争に翻弄される中、それでも自分の軸を持って仕事を続ける。高野のキャラと松岡茉優の本作における立ち振る舞いが重なって見えてくる。
引くところは引くし、押すところは押すのである。あと我が家・坪倉の芝居も良かった。中村倫也はもう「恋あた」の社長にしか見えない笑 池田エライザのキャラも本人役か?と思うぐらいハマってるが、良くも悪くも池田エライザの域を出ない。なぜ彼女はスクリーンだと急に輝きを失うんだろうな。謎。
コンゲーム的な楽しさは期待通り。いや、思っていた以上にエキサイティングだし、先読みを許さない展開で面白い。あんまりわざとらしい伏線のばら撒き方もしない。ただ、後半少し失速する。同じトーンで話は進むのに、テンションが落ちるのである。どんでん返しに免疫ができてしまったからかしら。
正直、盛り込み過ぎ?個人的にはひとつぐらい要素切り落としても良かったと思う。いまなにやってるんだっけ?って感情が振り落とされそうになったから。エピローグが長かったのはとても残念だった。ああいう着地点を見失ってしばらくさまよってしまう映画は正直好きじゃない。面白かったけども。
「ノマドランド」感想
ノマドランド、みた。知らない世界を生きてみる。そんな体験が映画を見るよろこびの一つなら、これほど映画的な映画はない。ただ働いて、メシを食い、寝る。延々と続く地平線を旅するファーンは、人に頼らない。ノマドな生き方に憧れるのではない。孤独を受け入れて生きる彼女の勇敢さに感動するのだ。
どこまで行っても涯てのない大地を進むファーンのヴァンは、まるで彼女の生き様そのものである。夫と暮らした街を離れ、次の「家」に住むことを拒むかのように浮浪し続ける。しかし映画はそんな彼女の姿に寄り添いすぎず、かといって否定もしない絶妙な距離感で追っていく。
地球の向こう側にはこんな生活をしているんだ。そこには想像もしない喜びや悲しみがあって、たしかに彼らは実在しているのだ…という新鮮な驚きと感動。ジャオ監督の前作「ザ・ライダー」に続き、ルポルタージュ的アプローチで描かれるアメリカの格差社会の現実を、僕はただじっと見るしかなかった。
毎日規則正しく昇っては沈む太陽。どこまでも伸びていく地平線。コインランドリーのドラム式洗濯機。ただお腹を満たすため、駐車場代を払うために臨時雇用で金を稼ぐ。あまりに機械的すぎて、何のために生きてるんだろうと思う瞬間もある。循環する、無機質な日常。この感覚は身に覚えがある。
ファーンはどこに根差すこともなく、孤独な生活を受け入れて旅をする。しかし、だからといって彼女は寂しい人生を送っているわけではない。「また、どこかで」出会える仲間がいる。薪を囲んで語らったり、ひさびさに再会した旅人とよろこびを分かちあったりするその瞬間に、放浪の理由があるのだろう。
リンダ・メイやスワンキーなど、ファーンのノマド生活仲間はなかなか個性豊かで愉快な人たちだ。なにより主演のフランシス・マクドーマンド。肌に刻まれた深いしわ、無造作に切られた髪、力の抜けた涼しげな笑顔。ぜんぶカッコいい。ファーンという「そうとしか生きられない人」を魅力的に演じている。
一方、映画としてはなんとなく「ここで終わるのか?」が3回ぐらいあり、僕の中で着地点を見失ってしまったのは否めない。「ザ・ライダー」の方がその点はもっとシュアだったかな。でも、その分本作は多角的で、豊かな映画にもなっていた。朝焼けの冷気が伝わってくるような映像もいい。必見の作品。
「JUNK HEAD」感想
JUNK HEAD、みた。永遠の命を手に入れた人類と、地下世界に暮らす人工生命マリガンの物語。七年の歳月をかけて作られたストップモーションが圧巻!こんなに自由に動けるんだね?ヘタなハリウッド映画よりアクションしてる。ギレルモ・デル・トロ作品のようなグロテスクだがキュートな世界観が素敵。
お話運びがまどろっこしくてちょっと見にくい。爆睡してるおじさんが居たが、俺も序盤でウトウトしてしまった。振り返ってみると、あれやこれや必要だったのかな?と思うところもある。しかし、テリー・ギリアムのようなスチームパンク的世界観の作り込みが緻密ですばらしい。一から生態系を作ってる。
やっぱりあの黒い三馬鹿キャラが良かったですね。ミニオンズみたいな掛け合いが楽しい。彼らが登場すると物語も一気に盛り上がる。クリーチャーも気持ち悪く、しかしそれでいて間抜けな可愛さがある。お話はなかなか残酷だったね。命が軽い。