映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「東京自転車節」感想

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東京自転車節、観た。コロナ禍で仕事を失った監督が上京し、一回目の緊急事態宣言下の東京をウーバーイーツ配達員として駆け抜ける。非常に生々しいドキュメンタリーである。監督の惨めな境遇や情けなさ、どうしようもない現状への愚痴まで、あれもこれも全てさらけ出す。これは一見の価値アリ。

これは肯定的な意味で捉えてほしいんだけど、わりと監督の言動で「オイオイ」ってなるんですよね。お金入ったらすぐ使っちゃうらしく、ホテルに泊まって貯金が尽きかけたり、いつの間にか有線のイヤホンからAir Podsになってるし笑 お金貯めて奨学金返すぞ!って息巻いてたのはなんだったんだと。

大雨の中、ずぶ濡れになりながらチャリを漕ぐ監督と、煌々と光り輝く夜のタワマン群の対比はなかなかグロテスクである。転がり込んだ東京の友だちが「もうどうにもならねーよ」と言いたげに、微妙な表情でスパスパとタバコを吸う姿は切なかった。あんな顔してる大人、見たことないよ…笑

自転車漕ぎながらおのれを鼓舞するようにブツブツとクサいこと呟く監督、ぶっちゃけ痛いな〜と思いつつ、でも、しんどいこと独りで耐えなきゃいけない時は、やりたくならよなとも思う。個人的には平野勝之監督「監督失格」のクライマックスを思い出さなくもなかった笑

「少年の君」感想

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少年の君、観た。ことしの映画でいちばんしんどい。北京大学を目指すいじめられっ子のチェンと、彼女を守ろうとするチンピラのシャオベイ。底なしの地獄で見つけた小さな幸せすら、あっさりと踏み躙られる。大人や社会が頼りにならない、徹底した「個」の物語に(ならざるを得ないのに)憤りを感じる。

正直、普段はあまりこういう「不幸のサイクル」的な映画は好きではないのだけど、「少年の君」はとても面白く観た。冒頭の同級生の自殺からはじまり、主人公に矛先が向いた後のいじめのエグさ、親からプレッシャーを受け、どこか壊れてしまった子どもたち。みんな幸せそうには見えない。

中国といえばどんどん豊かになっていく国のイメージだけど、その裏では過度な競争に潰されてしまったり、取り残されてしまったりする人もいる。高度経済成長期の日本でも「新幹線大爆破」や「上を向いて歩こう」があったけど、これも成長の歪みの結果みたいな映画ではある。

中国映画は当局の検閲があるので、「いじめは世界的な問題です」とか「共産党はいじめ問題に取り組んでいます」なんてエクスキューズを付けているけど、逆説的にこの映画が、現代中国(に限った話でもないのだが)の病理を描いた作品であると白状しているようなものだと思う。

シャオベイ、最初は嫌なチンピラだな〜と思ったけど、だんだん表情が柔らかくなっていく。そして、チェン(チョウ・ドンユィ)がとにかく良い。ボロボロになった彼女のしゃくりあげるような哭き方ね…。焦りを見せず達観した雰囲気が、親の圧に苦しむいじめっ子たちの神経を逆撫でするのだろう。

「SEOBOK ソボク」感想

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SEOBOK ソボク、観た。永遠の命を持つクローンと彼を守る元情報局員の逃避行を描く。もう少し硬派なSFを期待していたが、思ったより力の入ったアクション映画だった。個人的には「やっぱり韓国映画はこっちに行っちゃうか…」と。この手のジャンル映画が好きなら、期待通りのものは見られるだろう。

異なる立場の男ふたり。最初は分かり合えないけれど、ともに危機を乗り越え、同じ窯の飯を食ううちに…というのは、韓国映画の王道であり、日本でも人気がある。「インサイダーズ」や「鋼鉄の雨」は俺も好きだ。しかし、この手の作品は層が厚いからこそ、それらと比べた時に物足りなさが残った。

要するに、新鮮な驚きがなかったのである。ある程度入り口から「SF」を期待していた以上、なんらかの捻りやサプライズを求めてしまっていて、そこにハマらなかった、ということ。最初から最後まで既視感は拭えず、途中すこしウトウトしてしまった。でも、ソボクの表情の変化は良かったね。

人間の欲深さや、ソボクを追い回す勢力の身勝手さ、人はなぜ「生きよう」ともがくのか。さまざまなテーマを盛り込んでもなおスッキリと見られるエンタメに仕上がってるのは、流石のクオリティだと思う。CGも違和感がない。バルト9で観たが、音響も迫力あって良かったです。

「竜とそばかすの姫」感想

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竜とそばかすの姫、観た。面白かった。芒洋としたネット空間で、少女が変える「世界」とは。うたを通して自らを解放していくすずの成長が爽やかだ。四万十川の表情もすばらしい。しかし、細田作品にしてはノイズ少なくて見易いな〜と思ってたら、案外批判が多くて、自分の鈍感さにびっくりしている笑

細田監督はインターネット嫌いなのかな笑 ネット世論の毀誉褒貶が混在する感じの描き方はワイドショーの再現ビデオみたいで、あんまり上手いとは思わなかったけれど。あとネット空間「U」がどういう世界なのかピンとこない。これは「バケモノの子」のバケモノ界のゆるさからあまり進歩してない。

あとアバターを通して、自分の手の届く世界の外へ冒険していく過程は「レディ・プレイヤー1」を思い出した。「U」の描き方は「アメーバピグ」の域を出ず、みんなが熱狂するのを納得できるほどの説得力はない。でも、そこらへんのディテール(設定)の甘さを補ってあまりあるだけのアニメーション表現。

オープニングのクジラに乗って現れるベル(「バケモノの子」のクライマックス!)の迫力はすばらしかった。ここでノレれば、そのあとはもう映画の流れに身を任せればいいのではないか。「U」の描写で「ブレンダンとケルズの秘密」を思い出したが、本当にカートゥーンサルーンが関わってるらしい。

しかし、どんなに豪華なネット描写よりも、俺は駅の改札口での長回しから横断歩道をまたがった会話への一連の流れにいちばん惹かれた。細田監督の演出力が光っていたと思う。やっぱりこの人は監督と原作だけ担当して、脚本はほかの人に任せてほしいけど、そうすると良さが失われるのかなあ。

「ブラック・ウィドウ」感想

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ブラック・ウィドウ、観た。面白かった!ナターシャって居場所のない孤独なスパイのイメージだったので、いい意味でそれが覆された。レッドルームの設定がふんわりしてたり、血に塗れた彼女の過去への踏み込みが今ひとつな気もしたけれど。あのヴィランのモデルはジェフリー・エプスタインだろうか。

世界の危機に立ち向かうっていうよりは(もちろん敵は悪者なのですが)あのクソ野郎潰しに行こうぜ!のテンションなのがとても良かった。ナターシャはレッドルームで身体を改造された過去や、かつては殺し屋だった事実がシリーズを追うに連れ忘れられていったが、本作は改めてそこを掘り下げている。

ナターシャはより慈悲深く、しかし、自らの過去を悔やむひとりの人間として描かれている。アベンジャーズの中だと「紅一点」になりがちで、ケンカの仲介役を担うオトナとして扱われてきたけど、今回は生意気な妹のエレーナが隣にいる。もっと人間臭くて、欠点もある人なのだとわかった。

タスクマスターはちょっと勿体なかった。この映画はナターシャの過去の清算的意味合いもあるのだが、レッドルーム/シールド時代の掘り下げが若干甘く、観客側が想像で補わなければならない箇所が多い。レッドルームもソ連のスパイ組織かと思ったらヒドラっぽいところあるし、どういう存在なのか謎だ。

何よりこの映画はエレーナの存在感だろう。正直、フローレンス・ピューがスカーレット・ヨハンソンを食ってすらいる。当代一の「末っ子」俳優と言えるだろう。自分を置いてけぼりにした姉に反発しつつ、美しい思い出を「本物」だと信じたい。いじらしいキャラである。

「自分で服選んだことない」と言いつつ、わりと凝った三つ編みの髪型にしているのがかわいい。もうちょっと緻密なスパイ劇になると思ったが、わりと個人行動の大味なアクション主体ではあった。繰り返し見たいと思うタイプの作品ではないものの、マーベル作品の安定感に浸される作品だと思う。

「ロマンス・パパ」感想

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ロマンス・パパ、観た。60年代韓国を代表するホーム・ドラマ。ゆる〜い前半はそれなりに退屈だが、少々シビアな展開を迎える後半、これが効いてくる。パパ役のキム・スンホが素晴らしい。特に終盤のしょぼくれた顔と丸い背中の切なさよ!子どもたちによる心を込めた誕生日プレゼントにほろり。

兄と弟で靴のおさがりを押し付け合うくだりや、父は一家の「最高権力者」とされるあたり、当時の家父長制の厳しさを感じて少しピリッとするけれど、基本的にこの映画の「パパ」は、優しく、包容力にあふれた存在として描かれる。家に忍びこんだ泥棒に声を掛け、酒を飲もうとするのは笑った。

「誤発弾」と言い、この頃の韓国の家計は相当厳しかったのだろうか。経済的な厳しさに煽られて瓦解したのが「誤発弾」だとしたら、逆に絆のおかげで立っていられたのが「ロマンス・パパ」だ。お父さんとお母さんにそれぞれ「あなたが最高の妻/夫だってよ」と吹き込むくだりは可笑しかった。良作。

「東京リベンジャーズ」感想

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東京リベンジャーズ、観た。アニメ版は途中で挫折したが、こちらはちょうどよくエピソードが端折られて観やすかった。吉沢亮の魅力はなにを考えているか判らない死んだ目つき。マイキーの妙な愛嬌と怖さにハマっていた。山田裕貴の演技の幅の広さと奥深さにはひたすら感動。あと間宮祥太朗がエロい。

吉沢亮は直近の「青くて痛くて脆い」や「AWAKE」でも、虚ろな目の演技が光っていたが、マイキーの「なぜかタケミチのことやたら気に入ってるけど、理由がよく判らなくて怖い」感じが良く出ていた。下駄箱で日向ちゃんに絡むくだりは痺れましたね。

日向ちゃんのキャラは正直そんなに深みもないのだが、今田美桜のまん丸の瞳が内に秘めたる熱いハートを象徴していて、良い配役だったと思う。杉野遥亮は相変わらずちょっと表情が固い笑 磯村勇斗は踏みにじられるチンピラの役がやたらと似合う。「ヤクザと家族」に続く半グレキャラである。

散々な人生を変えるべく「何がなんでも自分の足で立つ」タケミチの成長に絞ったお話の組み立てはとても好きだが、間宮祥太朗清水尋也を完全に持て余している。続編作りたいならその要素を散りばめてもいいと思うのだが(みんなあそこで終わらないのは知ってる訳だし)。ちょっと勿体無い。

真面目な場面でも茶化したがる英勉が全編にわたって抑制した演出で手堅くまとめたのはちょっと意外だった。ひとつぐらい変顔入れると思ったのに。やるなってオーダー入ったのかな笑 英勉節を期待すると物足りなさはあるが、たぶんこれで正解なのだろう。