映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「美しき結婚」感想

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美しき結婚、観た。「私、結婚する!」と宣言してから好きになる相手をさがすサビーヌ。いや〜、絶対友だちになりたくないな…と思いつつ、カーキ色のクラシックカーを乗り回し、猪突猛進で迷惑かけまくる彼女から目が離せない。胸かきむしりたくなる痛々しさ。円環で閉じるラストシーンがシャレてる。

いとこ紹介してああいう風に文句言われたら、俺だったら流石にそりゃないよって思うけど、クラリスは懐が深い笑 マイワールドを展開して突っ走るサビーヌをどこか俯瞰で見て、面白がってる節もあろうが。デカいこと言うけどぜんぶ空振りなのが面白い。結婚のこといろいろ語ってたけど中身は忘れた。

エドモンから電話来ないんだけど!」と文句を言うために、サビーヌはあの小さなクルマを乗り回してクラリスの職場に殴り込む。彼女が小柄な女性であることが作中何度か触れられているが、頑張れば頑張るほど空想の沼にハマっていく様は、やはり何だか滑稽である。そこには子どもっぽさが滲み出る。

正直「一目惚れ」の場面はともかく、エドモンが必死に追い回すほど魅力的には思えない。逢瀬を重ねるごとにメッキが剥がれていく(明らかにパーティーでは困惑しているし、最後の職場での会話も「誠実」かもしれないが、ウダウダとまわりくどい)ように見えるが、サビーヌは盲目的に「結婚」を望む。

エドモンをホームパーティーに呼び、二人きりの時間をつくることに成功するが、妹がうっかり部屋のドアを開けて空気が壊れる。その前の場面でケーキのろうそくを雑に引っこ抜くあたり、がさつな人間であることは容易に読み取れるが、彼に立ち去られてぐずり、母に当たり出すあたりはもう…笑

結局最後まで人な話は聞かないし、ぜんぶ他人のせいにして片付けてしまうのだが、なんだかんだ彼女は自分が望む方向に人生を進められそうだ。なぜだかそういう感触がある。電車で相席になった男(冒頭の駅ですれ違っている!)が目を向けるラストカットに、「もうそっちで勝手にやってくれ!」となる笑

勝手にしやがれ」「ラ・ポワント・クールト」「飛行士の妻」と、数少ないけれど観たことのあるヌーヴェル・バーグの恋愛映画を並べてみると、全部「他人の恋愛なんぞどうでもいいよ!」と最後まで観た上で改めて思わされる作品ばかりだ笑 ほんとうにくだらない痴話喧嘩。だが、そこに楽しさがある。

「護られなかった者たちへ」感想

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護られなかった者たちへ、とりあえずの感想。最後の10分で上映止まっちゃったけど、ほぼ締めのお茶漬けモードだったので。震災と疑似家族の切り口は、導入からほぼそのまま「岬のマヨイガ」でびっくりしたが、こちらは生活保護がテーマ。自己責任社会の矛盾を描く作品がシネコンにかかるのは意義深い。

共産党が「生活保障制度」に名前を変えましょうと主張するぐらい、生活保護には悪いイメージがつきまとう。国のお世話になる、なんて考え方をする人も多い。そして、けいさんの苦境は、正直全然他人事ではない。それこそ地震がきて生活が壊れたら、「努力」では補えない部分が出てくるからだ。

瀬々敬久監督の作品はよく言えば重厚、悪く言えば、泥に浸かって水を吸ったスニーカーみたいに履き心地が悪い。上映時間もタイトとは言えず、いいから早くこの靴を脱がせてくれ!と。本作でもよく分からないところでバレエダンサーが踊ってたり、急に説明口調が入ったりする。キレがあるとは言い難い。

というより、瀬々監督のテンポ感が、いまいち俺の好みに合わないのだろうと思う。俺の中では中島哲也吉田恵輔と同じ並びだ。しかし、佐藤健は役の幅が広い。「仮面ライダー電王」のヘタレ役から、「恋つづ」のクールキャラ、そして「ひとよ」や「いぬやしき」、本作では鋭利な目つきの内向的な男。

清原果耶もほんとうに奥行きのある役者だ。この映画でもいろいろな表情を見せるが、特の回想の怒りなのか悲しみなのか判別のつかない、とにかく苦しさが腹の底からせり上がるような顔つき!一方、阿部寛は安定感があるものの、よくある刑事キャラの範囲でしか動かせてもらえなかったのかなと思った。

なにより居心地が悪かったのは、震災から10年経っても人びとの心や生活がズタズタのまま元に戻らない現状をのんきに映画館で観るという体験をしている最中に、それなりに大きな地震がきて、アラートが鳴り、それでもなんとか鑑賞を続けようとした自分がいたことだ。

なにより居心地が悪かったのは、震災から10年経っても人びとの心や生活がズタズタのまま元に戻らない現状をのんきに映画館で観るという体験をしている最中に、それなりに大きな地震がきて、アラートが鳴り、それでもなんとか鑑賞を続けようとした自分がいたことだ。

少なからずその構造に加担し、みずからの首をじわじわと締めながらもなお、「あと10分で映画終わったのに」とブツブツ呟きながら、地震で中止になったチケットの返金処理を済ませる、あまりにのんきで愚かな自分に気づいて、なんだかなぁと思ってしまった。さて、どうしようかな。

「ロゼッタ」感想

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ロゼッタ、観た。アル中の母とトレーラーハウスに暮らす少女を描く。ダルデンヌ兄弟パルム・ドールを勝ち取った作品。ガツガツと歩くロゼッタの背中を追う手持ちカメラの撮影がとにかくすばらしい。戦争映画か自然ドキュメンタリーのよう。ラストカットの表情もお見事!あの一瞬のためにある映画だ。

ロゼッタが工場をクビになってロッカーに立て篭もるまでの一連の流れにまず引き込まれる。トレーラーハウスやワッフル屋のワゴンなど、狭い空間を狭い空間のままに鮮やかな導線で撮影するテクニックがとにかくすごい。どのカットもハズレがなく、「すべて正解だ!」と思った。

どうでもいいのだが、ロゼッタがキャンプ場の沼に罠を掛けてマス釣りする場面、ビンを投げ入れた瞬間に引き上げるとすでに一匹捕まっている。いくらなんでも早すぎるだろうと笑 長ぐつをわざわざ外に隠してるのもよくわかってらなかった。家に置いておけばいいのでは。

これまで観たダルデンヌ兄弟の作品は「イゴールの約束」も「その手に触れるまで」も、「ここで終わってくれ!」というベストなタイミングでばちっと暗転する。本作もプロパンガスで自殺を図り、地獄までの道を歩くかのようにボンベを担ぎながら、その「重み」に耐えきれず、倒れた先に見たその「手」!

ロゼッタが他者の救いを受け入れる、心の壁が静かに溶解したのがわかる絶妙な表情。ぱっと見では変化がないのだけど、90分の積み重ねが、観客の目にドラマを読み取らせる。手持ちカメラで接写されるロゼッタのその顔は、ピュアのようにも、貧しさで荒んだ卑しい人間の姿にも見える。

「こいつが死んだら私は仕事を得られる(=まともな生活を送れるかもしれない)」と魔がさしてしまう瞬間。「イゴールの約束」が抑圧的な環境で善性に目覚める作品だとしたら、「ロゼッタ」はその逆だ。追い込まれた少女が耐えきれずに自死の選択まで迫られてしまう。しかし、絶望では終わらせない。

「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」感想

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007 ノー・タイム・トゥ・ダイ、観た。英国の斜陽とジェームズ・ボンドというキャラクターの時代性に向き合ってきたシリーズ。なるほど、ダニエル・クレイグの花道としてこれ以上ない結論だ。スタイリッシュさとバカバカしさの行き来が絶妙で、やや長くても退屈せずに観られた。良い卒業式映画だ。

あまりシリーズには愛着がなく、ダニエル・クレイグ版以外だと「ドクター・ノオ」ぐらいしかまともに観ていない。そもそも前作にレア・セドゥが出ていたことすら記憶があいまいなレベルなのだが、ジェームズ・ボンドの記号性と、ダニエル・クレイグがそれを演じることの意味を見つけたラストだと思う。

アヴァンのイタリアのシーケンスはさすがの景気の良さで、スパイ映画を観ているな〜とうれしくなった。アナ・デ・アルマスの登場するキューバのパートも良い。しかし、全体的にアクションはモッサリしている。ネイビーのドレスを靡かせ、アサルトライフを担ぐ彼女をカッコよく撮れているとは言い難い。

話の展開上必要なのかどうか怪しい場面も多く、ハンス・ジマーの重厚な音楽がかえってテンポの悪さを強めている気がしなくもないが、リッチで華やかな世界観のおかげで良くも悪くも楽しめてしまう。しかし、ゆえにロケーションに新しさを感じないクライマックスはちょっと退屈だった。

ラミ・マレックが演じるヴィランも、あまりインパクトがないな〜と思った。観客の関心はボンドにあるので、彼がどんな動機で事件を起こし、このあとどういう結末を迎えようが、正直どうでも良いのである。ただの狂った人で描けば、もっとストーリーもシャープになったのでは。

「イゴールの約束」感想

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イゴールの約束、観た。「その手に触れるまで」のダルデンヌ兄弟。原点はここにあったのだと気づく。不法移民のアパートを仕切る強権的な父とその息子イゴール。最悪な環境で「善い選択」をするってすごく勇気が要る。ラストの沈黙は赦しなのか、それとも怒りと失望か。シンプルだが見応えあり。

90年代ベルギーの移民事情なんて全く知らなかった。不法移民の売り買いなんてあったんだ。最近の話だと思ったら、結構前からこういう社内構造になっていたんだなと。15歳の少年があのアフリカから来た女性に抱く感情は、綺麗なものばかりでもない気がするが、徐々に抑圧から解放される様が美しい。

父から抜け出すくだり、ガレージで足を鎖に巻きつけて…なんてアクションは、ちゃんとエンタメしている。「その手に触れるまで」のクライマックス、窓から建物に忍び込もうとする場面を思い出したり。

「飛行士の妻」感想

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飛行士の妻、観た。はじめてのエリック・ロメール。好きな女に粘着する青年が、街中で見かけた彼女の元恋人を尾けまわす…。このフランソワという男がなかなか酷い奴だ。公園で出会った、彼をからかう女の子との会話劇が白眉。これが面白すぎて、終盤は「他人の痴話喧嘩って基本どうでもいいな」と笑

訂正。「緑の光線」はすでに観てました。改めて今泉力哉エリック・ロメールホン・サンスのエッセンスを濃く受け継いでいるのだと知る。カットを割らず、屋内での緻密な導線とことばの応酬から、いま・ここの関係性を立ち上がらせる。手持ちカメラの生っぽさがたまらない。

「これは映画みたいな話なんだけど」と本人がメタ的に釈明するように、フランソワの一日は非常にドラマチックだ。そして、あのラストの「葉書」にまつわる顛末の喪失感。たしかに俺もガッカリしちゃったけど笑 あそこで感情が同期して、フランソワと同じ自分の気持ち悪さが炙り出された気分にも。

なんでお前が期待するんだよ、アンナがいるんじゃなかったのかと。一方、アンナから見ると朝は「飛行士」に振られ、昼はイラついたフランソワがギャンギャンと喚き、帰り道にヘンな男に捕まり…と、散々な一日なのだ。疲れきって泣き出すまで、彼女に一切寄り添わないフランソワの幼さ…いや、愚鈍さ!

そして、中盤の「ストーキング」の場面。リュシーの奔放さに惹かれる。終始、おどおどして余裕のないフランソワを面白がり、良き遊び相手として見ている。観光客のカメラで飛行士と女を撮ろうとするくだりは笑った。だから、そのあとのフランソワとアンナの痴話喧嘩は、もう勝手にやってくれって感じ。

終盤は、良くも悪くもフランス映画っぽい。こないだ観たアニエス・ヴァルダ「ラ・ポワント・クールト」も終始あんな感じだった。とはいえ、退屈させずに最後まであちこちに彷徨う男女の感情の波を見せ切るのはさすが。ここまで来たらお前らで解決してくれよ…と、ぼんやり思ってしまったけど笑

「MINAMATA ミナマタ」感想

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MINAMATA ミナマタ、観た。心身に傷を負った戦争写真家が、再起をかけて水俣病を取材する。何度伝えても「戦争」はなくならない、カメラの前の被写体は苦しみ、死んでゆく。無意味のように思えても、繰り返される悲劇の前に立ち上がる。これを受け取ってあなたはどうする?と問われている気がした。

ユージン・スミス再起の物語としてはよく出来ているものの、彼を主人公にした結果、告発映画としての輪郭はボヤけてしまっている。あくまで活動の中心は現地住民であり、ユージンは戦場写真家のように、ただその場で事実を記録するのみ。彼の功績は、極めて個人的な「再起」に集約して描かれる。

この映画がふつうのジャーナリズム映画と異なるのは、ユージンはあくまで「仕事」として現地に赴く、隠された真相を明かすのではなく、すでに多くの人が声をあげている現状をさらに広く世界に伝えるというミッションを背負っていること。そして彼は写真家なので「アーティスト」の顔が前面に出ている。

ここらへんのバランスが絶妙だったのは光州事件を舞台にした「タクシー運転手」だろう。これはあくまで「外部」の目線を韓国人である主人公に背負わせつつ、さらに外国人ジャーナリストをそのバディに置くことで、自国民の活動に主体性を持たせつつ、「外部」への広がりを、奥行きをもって描いていた。

同じスタッフが制作した「マルモイ ことばあつめ」でも同様の手法で日本統治下の「同化政策」への抵抗をうまく扱っていた。「MINAMATA」は、ユージンの妻の伝記が原作であり、これらの映画で「友情」だったところが、控えめとはいえ「ロマンス」になっていたので、よりパーソナルな印象を強めている。

ジャニー・デップの演技は良かった。酒浸りで常に呂律が回っていないようなときと、写真家として信念に目覚めたときのシャキッとしたオーラとのメリハリの表現。対する美波は「下流の宴」のイメージだったが、あの力強くもフランスをルーツに持つアンニュイな美しい瞳に、しずかな闘志を感じた。

浅野忠信は演技のトーンが邦画っぽくあっさりとしていて、ジョニー・デップのコッテリ演技との相性に不安も感じたが、彼にウイスキーを持ってくるくだりの自然な所作を見ていると、もっと出番あっていいのにと思った。真田広之加瀬亮の怒りを帯びた演説がすばらしいのは言うまでもない。

浅野忠信は演技のトーンが邦画っぽくあっさりとしていて、ジョニー・デップのコッテリ演技との相性に不安も感じたが、彼にウイスキーを持ってくるくだりの自然な所作を見ていると、もっと出番あっていいのにと思った。真田広之加瀬亮の怒りを帯びた演説がすばらしいのは言うまでもない。