映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「はい、泳げません」感想

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「はい、泳げません」を観た。心に傷を負った哲学者がスイミングスクールに通い始める…。ヘンテコなバランス感覚の映画だ。コメディとシリアスを行ったり来たり。なにより物語の契機となるはずの静香先生との「出会い」が弱い。なぜみんな小鳥遊に手を差し伸べるのか。要素はいいけど噛み合ってない。

主人公の小鳥遊には何やら隠された過去があるらしい。そんな好奇心によって観客は物語に引き込まれていく…。だが、彼にとって都合のいい話に見えなくもない。特に静香先生。そこまで交感が描かれないのに、なぜかどんどん先生の方は彼に入れ込んでいく。小鳥遊の関心は奈美恵と自分の過去なのだが。

静香先生は特に理由もなく主人公の前に現れ、救ってくれるメリー・ポピンズなのかと。綾瀬はるかがこの映画の口当たりを良くするための客寄せにしか見えない、と言ったら言い過ぎか。彼女は彼女でよかったけど、いっそ、小鳥遊と同様に男性のキャラクターにした方が新鮮味はあったのではないか。

セルフケアできない男性が「正しく傷つく」物語は多数作られてきた。最近では西川美和の「永い言い訳」や、濱口竜介の「ドライブ・マイ・カー」だ。しかし、俺は綾瀬はるかが好きだけれども、「永い言い訳」の竹原ピストルの方が、むさ苦しいおっさんだとしても人間味を感じたし、魅力的だった。

取ってつけたようなリトグリのエンディング曲も不満だ。ビジネスのにおいがぷんぷんする。これを最後に流したいなら、なぜあんなにシリアスな展開にしたのか。綾瀬はるかにしろリトグリにしろこの企画を通すために後付けで混ぜ込んだのか?と勘繰りたくなるぐらい、映画の描くべき内容とハマってない。

長谷川博己は相変わらず芝居がかった演技をするなあ、という評価は変わらないんだけど、小林薫を除いて、だいたいみんな大仰な芝居を付けられているから今回はこれでいいのかな。しかし、だからこそ、感極まった演技は光るし、終盤のヤマ場にはグッとくるものがあった。水中で◯◯するって初めて見た。

文句が多くなったけど、数多のノイズを乗り越えて、刺さったのは凝りに凝った演出。オープニングのテラスの会話の突然の闖入者、「水族館」と「スイミングスクール」の会話をつなぐ「手」、それからプールを泳ぐと見えてくる景色の数々。トラウマと思い出の反転もうまい。脚本さえ良ければ…。

「トップガン マーヴェリック」感想

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トップガン マーヴェリック、観た。面白かった!生死ギリギリの世界で戦うパイロットたち。フツーに生きてたら叶わない世界を覗くのが映画の楽しみだとしたら、こんなにも映画的な作品はない。そして老いと向き合うトム・クルーズが、死にゆく映画の世界で生涯現役を誓う物語がオーバーラップする。

正直、映画としてやってることは昔と変わらないし、前作との繋がりを強調しているから懐古的な作品になってもおかしくないんだけど、ちゃんと現代の映画になってる。しかも、トム・クルーズの自己言及的なエッセンスを盛り込みつつ、そればっかりを全面に押し出しもしない。かなり絶妙なバランス。

映画がまだエンタメの王道として威張れていた時代の、そのままの手触りのたのしさを、最新の技術で表現してくれる。冒頭のハイテク戦闘機のワクワク感。空を飛ぶとは、人間にとってそれだけで大変な営みであり、プロフェッショナルたちの戦いの場であり、なにより「ロマン」なのだ。ガツンとやられた。

シチュエーションの転換もうまい。必要最低限のロケーションで、しかも狭いコックピットの映像が続くのに、絵的に飽きることはない。訓練所のある広陵とした砂漠。砂っぽくて、汗臭くて、生のにおいがしない。そこを戦闘機が飛び交う。なによりそこにトム・クルーズがいる。それだけで場が持つ。

酒場の場面は緊張感が続くこの映画において、唯一の癒しである。ジェニファー・コネリーのハッとする美しさ。しかし、ここが過去と現在の結節点の役割も果たす。そこにいないにも関わらず、不穏にグースの不在を感じさせる空間。そういえば、マイルズ・テラーはやはりいい役者だ。不貞腐れ顔俳優。

話が逸れたけど、訓練所では砂漠、海に浮かぶ母艦を挟んで、実戦は雪山…という対比がいい。視覚的には、ちょっとしたサプライズになっている。砂と雪。訓練と本番は全然ちがうんだ!ってことを目でわからせる。なんか練習と違くない?って、感覚的に思ってしまう。不測の事態が起こりそうだ!となる。

グースの死が重しになっているので、どの航空シーンも、全然安心できない。トム・クルーズの映画だし、みんな何とかなるでしょ、みたいな感覚はあまりなかった。いつもみんなギリギリで戦ってるんだ。どこのラインを越えたらヤバいのか事前にルール説明してくれる親切設計。おかげですんなり楽しめた。

「わたし達はおとな」感想

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わたし達はおとな、観た。望まぬ妊娠を機にぐちゃぐちゃになるクソ大学生の恋愛模様を描く。時系列を入れ替えたところでミリも興味は湧かないが、なぜか面白くて最後まで食い付いてしまう。恋愛の厭な部分だけ煮詰めた今泉力哉映画といえる。大学一年生に必ず見せてほしい。そして不快になってほしい。

ストーリーだけ繋ぐと本当につまらなくて、こんなものを「等身大」と呼ぶのか?と言いたくなるが、一応、時系列を入れ替えることで、物語に引きをつくろうとしている。だけど、そこはうまくいってない。過去と現在で撮り方を変えてないので、シチュエーションで判断するしかない。非常に観づらい。

だから、過去と現在が交わっても、いまいちパンチがない。とても弱い。「ちょっと思い出しただけ」はここらへんの処理が上手かっただけに、作品全体の満足感に直結する欠点と言える。しかし、生っぽい会話の演出は好きだ。堂々巡りで答えのないやり取り。直哉のモラハラっぷりに、優実の押しへの弱さ。

直哉が優実にとある決断について問い詰められて「そう決断したからだ」で押し切ろうとする場面。某国の首相を思い出した。直哉は「とりあえず落ち着こう」「それは俺が悪いってこと?」「それだと俺も無理になる」などとりあえず相手が悪いことにするクソテクニックを駆使。不快度マックスである。

優実を演じる木竜麻生の横顔が、河田陽菜に似ている。優実がだんだん「クソ大学生ルートを選択した河田陽菜さん」に見えてきて辛かった(風評被害)。映画の序盤、旅行先のホテルのディナーで騒ぐ他の大学生グループを見て「あいつら酒覚えたてかねー」ってコソコソ笑う大学生女子4人。終始そんな話。

あと、エンドロール!これは良かったですね。もう勘弁してくれよ…って思いながら観てたので、どういう決着にするのかな?と思ってた。なるほどね。やっぱり監督は大学生が嫌いだと思う。好きか嫌いかで言われたら嫌いだけど、好きかもしれない映画です。

「FLEE フリー」感想

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FLEE フリー、観た。アフガニスタン難民が誰にも明かすことができなかった半生を語るドキュメンタリー。取材者保護のためのアニメーション表現が、この想像を絶する陰惨な現実との橋渡しになる。抽象化されるからこそ、その奥行きの解釈をこちらに委ねてくれる。しかし何より「声」の映画だと思った。

ロシアの警官のエピソードはキツかったなあ。少女の目、イヤでも想像してしまう。ノルウェー船と難民船の対比はあまりにグロテスクだが、しかし、自分はおそらく本邦における在留難民たちからすれば、あの「見下ろす」船客なんだ、と。「マイルスモールランド」同様、感想はぜんぶ自分に返ってくる。

一方、デンマークの兄とのエピソード。アミンの中で、きっと輝いているであろう記憶。キラキラしてた。愛があった。見返したくない場面ばかりだけど、アミンの人生の大切な1ページを垣間見た気がした。すごく好きな場面。そして、アニメーションと現実の接点。あの演出にはうなってしまった。

「クロステイル 〜探偵教室〜」感想

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クロステイル 〜探偵教室〜、全話観た。今期ドラマはほとんど途中離脱したけど、ゆる〜い深夜ドラマ感にハマって唯一完走。鈴鹿央士の童顔と声のギャップにやられる。それぞれのキャラに見せ場があるからいつのまにか好きになってるし、最終回の収束していく展開も好き。ゆる〜く続編作ってください。

「ニューオーダー」感想

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ニューオーダー、観た。幸せなはずの結婚パーティーになだれ込む暴徒。経済格差は限界を迎え、社会崩壊の時が訪れていた…。この題材を「ディストピアスリラー」としてエンタメ化することに抵抗感を覚えつつ、身も蓋もない「新しい秩序」の着地点には、不快や絶望をこえて、もはや虚無感しか残らない。

メキシコってマフィアが堂々と公権力を握れてしまう国というイメージで。その底なしの腐敗っぷりは側から見ても絶望的だが、この映画で描かれる危機も、きっと現実と地続きなのだろうと思う。暴力的な革命とその事後処理という意味では普遍的な歴史のお話だが、もっとメキシコの事情と絡めて考えたい。

多くの人が語るようにポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」を連想。血に染まる晴天のパーティーは特に。2020年公開作品なのでほぼ同時期の制作。単なる偶然ではないだろう。コロナ禍による社会不安で貧困層はより苦しくなり、富裕層は焼け太りするこの世界で、より切実さは増している。

ラジ・リの「レ・ミゼラブル」が暴動を起こす側の視点をうまく取り入れていたのに比べると、切り口がちがうから当然ではあるけれど、貧困層の怒りは少々紋切り型に見えてしまう。しかし、この映画は、社会の崩壊に対してさらにもう一段シニカルな見方を示しているように思う。

つまり「レ・ミゼラブル」や「ディーパンの闘い」で描かれるような秩序の崩壊はもはや前提となっている。最初から秩序なんて壊れていて、表面的に保たれているように見えるだけだ。デモ隊が街を破壊して富裕層を虐殺したとしても、すでにぶっ壊れた社会がその後どうなるかというと…。

最後の場面の位置関係。「見る」「見られる」の対比に、ああ、そこに落ち着いてしまうのかという空虚さだけが残る。で、やっぱりこういうオチを選ぶのは、制作国がメキシコだからなのではないかな?と。フランスやドイツだったらちがう着地点で作るのでは?と思ってしまう。

「パリ13区」感想

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パリ13区、観た。面白かった。男と女がくっついたり、離れたり。奔放なわりに後腐れなしとはいかず、いちどその温もりを知ってしまうと、一人寝る夜は寂しいし、終わりなき空虚と向き合う羽目になる。エミリーがめんどくさ過ぎるのにヒロインとして魅力的なのは、寅さんの愛おしさと通ずるものがある。

カミーユからひさびさに電話が来て、「バーカ!クソ!」なんて暴言吐いておきながら、いざ向こうから切られると「勝手に切るな」と電話を掛け直す。カミーユもよくこんな女に連絡するよなと思うと同時に、放っておけない意地らしさに納得もしてしまうのである。終始、そんな調子で進む映画だ。

エミリーが仕事の休憩時間にマッチングアプリの男と一発カマして、晴れ晴れとした様子でバレエを舞いながら職場に戻る。メチャクチャ面白い。ノラとアンバー・スウィートの物語も好きだ。「本名でポルノサイトに登録するなんてバカね」と。お互いに身を差し出す。やっとそこから始まる関係がある。

ディーパンの闘い」や「レ・ミゼラブル」、「GAGARINE ガガーリン」に並ぶ団地映画と言える。これらの作品が移民問題や格差を描く舞台として団地を選んでいたことに比べると、切り口はいくぶんかマイルドで、あくまで人と人の関係がめまぐるしく入れ替われる無機質な空間として描かれている。

くっついたり離れたりの末に訪れるふたつの結末。どちらも美しい。結局、どんなに苦しくても、こういう瞬間があればね、と思ってしまう。オープンな性的関係を描きながらもあまりいやらしさはなく、セックス第一で動いてる彼らを理解するには十分だった。カミーユを軸に対照的なのも面白い。

カミーユがエミリーと交わるときと、ノラと交わるときとで、雰囲気ちがうんですよね。エミリーは向こうからズカズカとプライベートな領域に踏み込んでくる一方、ノラとの夜は探り探り。エミリーの団地の「扉」を開け閉めする関係と、カミーユの不動産屋のオープンな関係(筆談!)。間取りの違い。