映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「モガディシュ 脱出までの14日間」感想

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モガディシュ 脱出までの14日間、面白かった。ソマリア内戦で混乱に陥ったモガディシュ。南北の外交官は渋々手を組み脱出を試みるが…。同じ民族でありながら相入れない両者のねじくれた関係が時に熱く、時に切ない。南北モノはハズレなしだが、日本はこの分断の一因でもあるから、とても複雑だ…。

ふたりの大使はベテランだけあって肝が据わっている。両国の若手参事官を抑えたり、彼らが苦慮する難局もどっしり構えて対処する。キム・ユンソクとホ・ジュノの組み合わせよ。特にホ・ジュノの顔の圧とシワで語る演技!腹の底が読めない人でありながら、対話と信頼を重んじる外交官でもある。

舞台はソマリア。本当にスケールが大きい。反政府軍による破壊行為の迫力もさることながら、各国の大使館の混乱っぷりなど、臨場感たっぷりに描かれている。手を抜いた描写がないなと思った。あと、個人的には少年兵のおっかなさが印象に残った。銃を向けるソマリアの少年と、向けられる北朝鮮の少年。

この内戦によってソマリアは崩壊していく。一方、韓国と北朝鮮もまた内戦によって二つの国に分かれたひとつの国家である。取り返しのつかない殺し合いに発展していくこの国を舞台に、すでに分断されてしまった国の人びとが手を取り合う。少年兵と北朝鮮の少年の対比は、その文脈を踏まえる必要がある。

北朝鮮の人びとが韓国大使館に転がり込む場面。みんなお腹空いてるのにご飯に手をつけない。なにか毒を守られているのではないか。両者の相互不信がここまで深いとは。しかし、「同じ釜の飯を食う」って、すごく大切だよな。韓国映画はフード描写を外さない。ここの場面はわりと最後まで効いてる。

「リコリス・ピザ」感想

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リコリス・ピザ、観た。いやぁ、楽しかったねえ。くっついたり離れたりを繰り返すゲイリーとアラナ。だから展開も無軌道で、良くも悪くもつながりを欠くが、オープニングの二人の出会いの場面からずっと最高だ。アラナ・ハイムとクーパー・ホフマンはその佇まいだけで物語になってしまう。大好き。

リコリス・ピザ、いろんな映画が頭に浮かぶけど、それでもポール・トーマス・アンダーソン印の新作なのだ。ジョージ・ルーカスの「アメリカン・グラフィティ」、リチャード・リンクレイターの「バッド・チューニング」の系譜にあることはまず外せない。

その上でタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のような楽屋オチ的小ネタが散りばめられているし、ハーモニー・コリン作品の能天気さも感じさせた。一方で、中盤以降はサスペンスの味わいもあり、石油危機など、これからの時代を暗示させる不穏さもある。

「わたしは最悪。」感想

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「わたしは最悪。」を観た。「出会ってから」を描くロマコメ。私の幸せがあなたの幸せとは限らない。現在の正解が将来の不正解になることもある。かと言って、この歳で何かを「待つ」余裕はない…。満たされなさを抱えたまま突っ走るが、いつも良い意味で「テキトー」な主人公が良い。勇気もらった。

「スープとイデオロギー」感想

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スープとイデオロギー、観た。在日コリアン2世の監督が、済州島の虐殺事件を生き抜いた母の過去を探るドキュメンタリー。徐々にアルツハイマーに飲まれていく母。饒舌だった彼女がどんどん「穏やか」になっていく。比例するように明かされるあまりに酷い真実。スープの味と共に受け継がれる。良作。

在日コリアンの家庭での会話。ハリウッド映画でよく移民家族が、英語とルーツの国の言葉を織り交ぜて語るのを見て、「そんなややこしいことする?」と思ってたけど、みんな本当にそうなんですね。夕飯の席、日本語で喋ったあとに「さあ、食べて」だけハングル、みたいな。新鮮かつ生々しい。

ヤン・ヨンヒ監督の夫が良いキャラしてますね。序盤、やたらとミッキーのシャツを着ている。やめたと思ったら、こんどはサングラス。ちょっと面白い。監督の向けるカメラと、それをつなぐ編集に愛を感じる。ほとんど映らない、夫婦としてふたりだけの時間すら、観客が想像したくなるような。

この映画の主人公とも言える、監督の母もまた、多面的な表情を見せる。おしゃべりで世話焼きな「大阪のおばちゃん」でありながら、キム一家の体制を信奉し、物騒な北の歌をうたい、息子たちを北朝鮮に送ってしまった。俺は日本を知っているようでいて知らなかった。在日コリアンの世界。

「PLAN75」感想

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PLAN75、観た。現代版「姥捨山」が導入された近未来の日本を描く。システマティックに「殺人」を隠匿したこの制度は、冒頭の犯罪者と何ら変わらないことを示唆する。未来というより現在の話だ。手続きのあっけなさや、都合の良い時だけ手際のいいお役所仕事に皮肉が効いてる。一見の価値あり。

是枝監督の弟子の作品といえば、「マイスモールランド」が挙げられるが、思えばあの作品もシステムの話だった。どんなに酷薄な仕打ちも、制度に組み込まれてしまえば、人間は黙ってそれに従ってしまう。ちょっとした違和感は飲み込んでしまう。とくに、この国においては。「仕方ない」と諦める。

全編にわたって抑制が効いている。役者に余白を与え、その中で表現させるから、描かれていない背景にまで観客の目線は届く。倍賞千恵子の「手」がいい。何かを終えるたびに彼女は布巾でロッカーや出前の寿司のお盆を拭く。そういえば、彼女はホテル清掃員の仕事をしていた。上品な語り口も良い。

思い出のクリームソーダ。非常に残酷である。その後の場面の河合優実!声の震え、心の揺らぎ。対峙しているのは生身の人間だ。磯村勇斗もまた彼女と同じように、この世界の案内人の役割を果たす。ベンチの改修の場面は、意地の悪いコントのようで笑えるが、あそこに限ってはフィクションですらない。

「恋は光」感想

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恋は光、観た。恋の矢印があちこちに飛び交う映画だが、その中でも特に北代さん!言葉にせずぐっと堪える儚さ、近くも遠くもない距離の可笑しさ。西野七瀬の魅力が爆発してる。変人でありながらフラットな物語の案内人を、神尾楓珠が好演。岡山の景色も美しい。それにしてもみんな昼からよく飲むなー。

しかし、クライマックスの平祐奈はエフェクトが鬱陶しく思えるぐらい、そのまんまでキラキラ輝いている。神尾楓珠と並んだ時の身長差!西野七瀬がすらっとして浮世離れしたスタイルで、目線がある意味「横並び」の分、ちょっと上目遣いな仕草に、心がざわついてしまう。それにしても横顔が綺麗。

馬場ふみか演じる宿木も、したたかな恋愛強者のようでいて、じつは満たされない者たちの一人である。恋をするとみんな哲学者になる。宿木嬢もまたその終わりなき懊悩に沈んでゆくのだ。そして、伊東蒼。この人の演技には毎回驚かされるしかない。今回も、物語にクリティカルなインパクトを残す。天才。

しかし、まあ、やっぱり、西野七瀬だよなあ。ふとした瞬間に見せる表情の切なさよ。ああ、そんな顔しないでくれ、と。顔を伏せたり、モジモジと手をこねたり、細かい所作に彼女の感情がダダ漏れで愛おしかった。この映画を観た誰もが北代さんを好きになると思う。もっと彼女のことを知りたい。

 

「メタモルフォーゼの縁側」感想

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メタモルフォーゼの縁側、観た。劇場を後にして、あの場所に帰りたいなあって思い出す映画は、正解だと思う。俺はあの縁側に帰りたい。縁側を通る心地よい空気や、雪さんとのおだやかな時間、同級生を「ずるい」と思ってしまうざらっとした感情。すべて「好き」を通じて得られた大切な思い出なのだ。

芦田愛菜は新作を観るたびに新しい驚きがある。はじめて雪さんの家に行った時のあたふたしたり、ワクワクが隠せなかったりする様や、印刷所の前で棒立ちするシーンなんて、マンガ的な笑いと実写のリアルの間の突き方がほんとうに上手い。一体どこにそんな引き出しがあるんだ…。天才としか。

女子高生と老婆の友情。しかもBLを通じた出会い。現代的なシスターフッドの切り口と言える。「好き」という営みを、あくまで趣味の範囲にとどめていて、あえて「生産的」な領域に引っ張り込まないのが良い。「メタモルフォーゼの縁側」はドラマになりそうな展開をあえて拒絶するのだ。

雪さんが歳をとっていることを、物語を盛り上げるためのネタにしない。歳をとっているが故に誰かが不幸になったり、損をしたりするような展開を用意しない。その逆もまた然りで、うららが高校生だからといって、辛い目に遭うことはない。うららの苦悩は、彼女のものとして描かれる。

「女子高生」と「老婆」というキャッチーな入り口ながら、記号的なドラマの作りをなるべく排除しようとしている。「BLだから」と拒絶されることもない。単純なようでいて、案外、複雑なことをやっているように見える。ある意味、これは理想の世界であって、もっと苦くて酷い現実もあるのだけど。

一方、脚本の作りは、もう少し上手くできたはずだと思う。エピソードの羅列になっている感は否めず。なにより時間軸がわかりにくい。季節の移ろいや、受験が迫ることに対して、リズムが欲しかった。「君のことだけ見ていたい」とのオーバーラップも、若干テンポを削いでいた。編集が悪い気がする。

「年の差58歳。最初の青春、最後の青春」とは、良いキャッチコピーだ。この時間は永遠ではないのかもしれないという儚い予感を漂わせつつも、この物語はずっと続くのだ、我々の現実と地続きなのだと思わせる、この絶妙なバランス。

雪さんの方が先に亡くなるだろうし、うららは大人になるけど、彼女たちにとって大事なのは、おそらくそんなことではない。ところでうららの通う学校が今どきで、教室の壁がガラス張りだったり、階段が開放的だったりで、良かった。ロケ地は淑徳与野女子。うららの団地や雪の古民家と良い対比になる。