映画狂凡人

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「夏の遊び」感想:生への執着と死への恐れを捨てる、青春時代の終わり

先週の土曜日、恵比寿ガーデンシネマベルイマン生誕100年を記念した特集上映が始まりました。ベルイマンを見たことがなかったので、さっそく初日から恵比寿に足を運びました。今回は「夏の遊び」についてです。

f:id:StarSpangledMan:20180722231351j:image

「夏の遊び」はベルイマン初期の作品。かつて恋人を喪った悲しみから心に壁を築いていたバレリーナが、もう一度人生を歩みだすまでを描いた青春映画です。

この映画のテーマは、やはり生と死でしょうか。老いを身近に感じながら無味な毎日を過ごしている現在の主人公のマリーと、恋人を喪う前の、無邪気に明るい明日を信じていたかつてのマリーの対比が残酷です。大切な人の死を目の当たりにするまで、彼女は「私は老いても死ぬわけない」と、永遠に楽しい夏が続くのだと思っていました。そんな輝きが、ある日突然ぷつりと切れてしまう。ヘンリックの死を受け止め切れず、茫然自失で車に乗る彼女と、彼女を照らす街灯の明滅を映すカットは、絶望を引き立てていて印象的です。

いずれ終わりが来るのだったら、人生に意味などあるのだろうか。毎日がんばって勉強したり働いたりして、その先に何があるのだろうか。誰もが直面する問題でしょう。彼女はすべてを無意味に思いなしてしまいます。しかも、最近は老いを感じ始めている。技を磨き、どれだけ舞台で華やかに舞っているとしても、おばさんになったら捨てられます。ちょうど舞台袖でお茶汲みをしているあのお婆さんのように。そんな絶望が徐々に彼女を蝕んでいくのです。

しかし、そんな彼女にもついに過去を振り切る時がやってきます。届いた日記をキッカケにかつてを回想し、ふたたび楽屋に戻ってきたマリー。彼女の絶望を嗅ぎつけたバレーの講師は、そんな内面の傷をつつきます。マリーは怒りや悲しみが溢れ出し、感極まってしまいます。そこにやってくる現在のマリーの彼氏ダヴィッド。楽屋で展開される3人の会話劇はかなりの緊張感です。気が滅入るような会話ですが、しかし、見ていた僕は確実に希望が近づいていると実感しました。閉ざしていた心の壁にヒビが入り、ぽろぽろと内面をさらけ出し始めていたからです。そして叫びます、「ヘンリック出て行って!」と。ダヴィッドに向けたつもりが、じつは心の中のヘンリックに向けて言っているんですね。ここでパーっと霧が晴れていきます。笑顔をこぼしながら鏡の前で化粧を落とすマリー。もうそこに「壁」はありません。自分を隠していた分厚い化粧ともおさらば。

そして、向かうのはバレーステージ。舞台袖で迎えるダヴィッドとキスをするマリーを、つま先出しをするトゥシューズで表現したカットには感動しました。茶目っ気があって素敵です。

f:id:StarSpangledMan:20180722233917j:image

ステージを優雅に舞うマリーに、これまでの暗さはありません。これから彼女は「いま」を生きていくのです。老いも死も受け容れて。生に固執し死を恐れる青春時代はここで幕を閉じます。なんと素晴らしく希望に満ち溢れた終わり方でしょうか。雷に当たれたような衝撃を受けました。ベルイマン一本目の出会いがこれで本当に良かったと心から思います。大傑作です。