映画狂凡人

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「野いちご」感想:3列シートの悲哀

こんにちは。じゅぺです。

今回はベルイマン特集上映で見た「野いちご」について。

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「野いちご」はベルイマンの代表作のひとつ。

勝手に青春映画かなにかと思っていたのですが、むしろ死にかけの爺さんの話でした。

「野いちご」はそろそろお迎えの近い老医師が、名誉博士号の表彰式の会場まで車で移動する1日を描いています。同乗者は彼の息子の妻で、現在はわけあって別居中のマリアンヌと、道中で出会った若者3人。人生ももう終わりの老人と、人生の岐路に立たされた女と、人生これから、前途洋々の若者の3者のコントラストが皮肉で、人が生きることの悲哀を感じます。老医師のイサクはもうマリアンヌの苦労も、若者の悩みも、すでに経験済みなんでしょうね。イサクはそんな道をとうに過ぎて、いや、過ぎてしまったからこそ、かつての選択への後悔や執着に囚われています。そして心身をむしばむ老いと、目前に迫る死。「夏の遊び」でも老いと死はテーマになっていますが、死にかけのイサク先生だから問題はより切実ですね。

「生と死」というテーマなのでお話としては重めですが、作品そのものにはユーモアがあふれています。笑える掛け合いも多いですね。特にイサクと家政婦。彼らは40年来の付き合いだからこそ、ちょうどよい距離感も知っています。そこから醸し出される笑いと悲哀。ひとつ一つのやりとりに厚みがあり、見応えたっぷりです。イサクと若者の絡みもほほえましい。若者の元気さに押され気味ながら、円熟した人間としてうまーく対応してる感じが面白い。やたらと血気盛んでけんかっ早い3人をニコニコと見ているイサク、さすが人生の先輩です。

あと、笑えるのは途中で乗り込んでくる夫婦のエピソードですね。途中マリアンヌがブチギレて降ろしますが、勝手に車内で夫婦喧嘩始めたときのまわりの「こいつら乗せなきゃよかった…」感が最高です。

ところで、この映画で有名なのはイサクの回想や悪魔、追憶のシーンみたいですね。序盤の悪魔の場面はかなり強烈でした。馬車が暴れまわるところなんて、無駄にお金がかかっていて豪華です。棺からゴロッとイサクの死体が飛び出してくるビジュアルもショッキング。さらには本来結婚するはずだった従姉妹との回想シーン。瑞々しい女の子と、しわくちゃの爺さんの対比が切ない。流れた月日の残酷さを突きつけてきます。イサクがこのような回想に耽るきっかけの描写がどれも自然で驚きました。こういうのってお話の都合で入れてる感が強いことも多いのですが、ほんとうにふとした瞬間に脳内をジャックするように、すっと回想シーンに入るんですね。どの回想にも驚きがあって面白い演出でした。

僕はまだどちらかというと若者サイドですが、ライフステージによって味わいが深まりそうな映画でした。まだあんまり老いの実感もないし、じぶんで家族を養っているわけでもないので、まだまだ得られていない目線というのはあると思うんですよね。節目ごとに見返して見たいと思います。