映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「bao」:たった8分で紡がれる親子の「これまで」と「これから」

こんにちは。じゅぺです。

今回は「インクレディブル・ファミリー」同時上映作品の「bao」について。

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監督は中華系の女性だそうです。主人公の「中国のおばちゃん」感がハンパなくリアルなのも納得です。もう3Dアニメーションでデフォルメされた「中国のおばちゃん」が見られる面白さだけで正直満足なぐらいですが、こうやってハイクオリティな短編が同時上映で見られるのがピクサー作品を映画館に見に行く贅沢な楽しみですよね。

ストーリーは、主人公のおばちゃんが朝ごはんに作った肉まんに生命が宿り、男の子として元気に育っていく…というもの。はじまりが朝ごはんなのは重要です。おばちゃんが、食べてくれる人(最初の場面ではお父さん)のことを思いながら、皮でアンを「包み込む」。これはすごく寓意的で、そのまま優しく家族を包み込む「お母さんの愛情」を表現していると思います。そして、そんなおばちゃんの愛をお腹いっぱい食べながら「肉まん」はすくすくと大きくなっていくのです。

身体が肉まんでできてるから、おばちゃんも息子のことが心配でなりません。小さい頃からそれで良かったのだけど、やがて息子が大人になっていくと、おばちゃんの心配は「過保護」になり、独り立ちしたい息子の気持ちは離れていきます。ここもまた切ないのですが、肉まんが金髪の女の子を連れ歩いていたり、絵面のシュールさも全面に出ているので、ほどよく笑えます。茶目っ気があっていいですよね。

そして、最後、おばちゃんは息子が去っていくのが耐えられなくて、ぱくりと食べてしまうのです。取り返しのつかないことをしてしまったと泣き崩れるおばちゃん。「食べる」という行為がこの場合はそのまま「死」に直結するので、なんとも残酷です。

ここからがどんでん返しです。おばちゃんの「肉まん」との人生は、なんと夢だったんですね。ベットの上で涙を流すおばちゃん。楽しかった日々を思い返しながら、自分のしてしまったことへの後悔で深い悲しみに沈んでいます。そこへやってくる本物の息子。夢で出てきた「肉まん」そっくりです。じつは、おばちゃんと「肉まん」の関係は、実際のおばちゃんと「息子」の関係の戯画だったんですね。彼女と一緒に実家を飛び出していた息子は、お母さんと仲直りしたくて帰ってきていたのでした。けっきょく、お母さんが恋しくなったんですよ。酷い形で関係を壊れてしまったことを後悔していたのは、お母さんだけじゃなかった。僕はここで懐かしい親子の日々がフラッシュバックしました。ああ、ふたりの間で積み重ねてきたものは嘘じゃなかったし、やっぱり簡単に消えてなくなるものじゃないんだよなって。だって息子はおばちゃんの肉まんを食べて育ったんですもんね。思えば、夢に出てくる息子が肉まんそっくりなのも、おばちゃんが彼のことを「肉まん」とか親しみを込めて呼んだらしていたのかもしれません。

ラストでは、仲直りした親子がいっしょに肉まんを作ります。もう息子も大人ですから。一方的に親の愛情を受けるだけでなく、親孝行しなければなりません。細かいところで感動したのは、おばちゃんが息子の彼女にも肉まんの作り方を教えているところです。きっとこのおばちゃんもお母さんから肉まんの作り方を教えてもらったんだろうと、連綿と続く親子の愛情についても想いを馳せてしまいました。大変短い映画ですが、正直、本編の「インクレディブル・ファミリー」より見応えがありました。この短い時間で、親子の「これまで」と「これから」をこれだけスマートに、そして感動的に描いてしまう。恐ろしいです。早くこの監督の長編作品も見てみたいですね。