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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「カメラを止めるな!」感想:文化祭的高揚感を共有する最高の劇場体験

こんにちは。じゅぺです。

今回はあの話題作「カメラを止めるな!」について、ネタバレありで感想を書きます。

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じつはこの映画、公開前から映画ファンの間ではすこし話題になっていました。年明け?ぐらいから映画祭の先行上映で見た関係者の評判が出回っていて、これはかなり面白いらしいという話はちょくちょく見かけていたんですよね。なので新宿K's cinemaでは初日から連日満席。ものすごいフィーバーでなかなか見に行ける状態ではなかったので、全国規模に公開が拡大されるまで待ち、8月3日にTOHO日本橋で見てきました!

やっぱり評判に違わず面白かったです。特に後半の「答え合わせ」が最高でした。前半30分のワンカットゾンビ映画「ONE CUT OF THE DEAD」の撮影の裏側が明かされるパートです。

予算300万の映画という情報は事前に頭に入っていました。なので「ONE CUT OF THE DEAD」のツッコミどころ、たとえば、俳優の芝居に妙な間があったりとか、道ばたになぜか便利なアイテムが落っこちていたり、といった作劇上の粗は「そういうもの」として受け入れていたんですよね。しかし、実はそのチープさが「生放送ワンカットゾンビ映画」という無謀でトラブル続きの挑戦の結果だったということが後半で明らかにされます。「ONE CUT OF THE DEAD」の作中劇と「ONE CUT OF THE DEAD」の裏側、それからこの2層を描く「カメラを止めるな!」の3層構造になっています。つまり、三谷幸喜監督の「ラヂオの時間」がラジオドラマとその裏側の2層構造でしたが、ここに映画の「カメラ」という機能が加わることで、より一層複雑な3層構造になっているのです。ここが本作最大の仕掛けであり、面白いところです。

正直、前半30分は退屈なところもあったのですが、後半の加速は素晴らしかった。満員の劇場も終始大爆笑でした。なによりステキなのが、登場人物みんな一生懸命なんですよね。生放送ワンカットゾンビ映画を成功させるために、必死に頑張っているのに上手く噛み合わない。だから面白い。大事なのは、この楽しさが「失敗」そのものではなく「頑張り」とその「噛み合わなさ」に起因するものだということです。みんな作品の完成と成功に向かって全力を捧げているんです。自分もその中の一員にいるようで、文化祭前日のような高揚感も身体中から沸き起こってくる。映画を見ている間、私たちは困難に挑戦する興奮を「ONE CUT OF THE DEAD」クルー、そして、満員の観客席のみんなと一緒に共有しているんですよ。だけど、クルー全員どこかズレているところがあって、唯一常識的(というか凡人)な日暮監督が振り回されてしまう。予算やスケジュール、クセの強すぎるキャスト陣たちに振り回され、フラフラになりながらなんとか立っているのが精いっぱいという状況。観客の僕もクルーの一員として応援している気分になります。だから、「噛み合わなさ」をある種温かい目線で見守りながら、やさしい気持ちで笑えるんです。単なる「失敗」の笑いではなく、あくまで「頑張り」の笑いになっているから、すごく品が良いんですよね。

僕らは、スクリーンの前で、みんなでワイワイ騒ぎながらモノを作る楽しさを感じている。だからクルーも友だちのように見えてきます。メタ的なことを言うと、クルーを演じている無名の俳優たちが「カメ止め」フィーバーの中で脚光を浴びている、この夢のような時間を共に喜んでいるのです。「予算300万のインディーズ映画」が日本中の話題をさらっているというシンデレラストーリーがまず前提にあるからこそ、「ONE CUT OF THE DEAD」のクルーの頑張り」と「カメラを止めるな!」クルーの頑張りがひとつに混じり合って、大きな感動を呼んでいるのではないでしょうか。少なくとも僕は現実世界の「カメ止め」の物語と「ONE CUT OF THE DEAD」のクルーの物語を、同時に消費していました。

そして、僕たちはまるでお酒を飲んだ後のようにお祭り的な興奮に酔いしれ、劇場を後にします。でも、ただ「楽しかった」で終わらないのが「カメラを止めるな!」の良いところ。予算やスケジュール、言うことを聞かないキャストなど、あまりに多すぎる制約とトラブルを抱えながら映画をまとめた日暮監督、そして、彼の頑張りに呼応するように、全力で映画に取り組んだクルーたち…彼らのへこたれなさに、僕たちは明日を生きる勇気をもらいます。理想はあるのに思い通りにいかないことって、毎日たくさんあると思います。むしろ、自分の頭の中で描いたままに物事が進む方が少ない。焦りやいら立ち、諦めを背負いながら、僕たちは日々の勉強だったり、仕事だったり、人付き合いを一つひとつこなしています。この映画はそんなモヤモヤを抱えて生きるすべての人を応援してくれる映画です。上手くいかないことのほうが多いけど、みんな明日も頑張れよ!と。カメラ用のクレーンがなくなっても、組体操でなんとかなるんだぜ!と。映画が現実を離れて夢を見させてくれるメディアなのだとしたら、これほど素晴らしい映画体験はないんじゃないかと思います。大傑作です。