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「宇宙を駆けるよだか」全話感想:ドロドロとした愛憎劇の中で輝く青春の光

こんにちは。じゅぺです。

今回はNetflix限定ドラマ「宇宙を駆けるよだか」について。

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同名タイトルの少女漫画を原作に、全6話で構成しています。あんまり期待せずに、というかほとんど前情報もなしに見たのですが、ものすごく良かったです。少女漫画原作の映像化作品は、ときどき映画で見ていますが、こういうドラマもアリだなと思いました。

主演の4人はたいへん素晴らしいパフォーマンスを披露しています。中身が入れ替わったり、精神崩壊気味になったり、たいへんな役ですが、ノイズはなく、むしろ心動かされる演技でした。特に富田望生は「ブサイク」も「美少女」も演じ分けていて凄まじかったです。これは今後の邦画で不可欠な俳優になりそうですね。清原果耶も殺気と怨念のこもった冷たい目つきに、可愛らしさと美しさを秘めていて、ドキドキしてしまいました。どんどん苦しい境遇に追い込まれていくのが見ていて辛くて、はやくあの可愛い笑顔に戻ってくれと思わされました。歩き方も「ブサイク」になってましたからねえ。ギャップ演技最高です。神山智洋重岡大毅のジャニーズペアも素晴らしかった。完全に舐めてましたが、特に重岡大毅は爽やかナイスガイからクールなイケメン、失恋に傷つくピュアな一面まで、さまざまな表情を見せてくれました。ファンの方は発狂ものじゃないですか。余談ですが、クレジットがこの二人から始まるのは、事務所の力関係を感じてしまいました。

主なあらすじは、クラスで無視され続けていた「ブサイク」な女の子と、クラスいちばんの人気者で「美少女」な女の子の中身が入れ替わるというもの。そこから始まる学校生活の変化だったり、ドロドロした愛憎劇だったり、ファンタジー要素を絡めた青春劇が見どころになっています。見た目が可愛くなっても、けっきょく中身が「ブサイク」なのでどんどん人が離れてしまうのは、かなり残酷ですが、そこそこ事実だと思いました。まわりに人が集まるような人気者って、性別問わずどこかしら愛嬌があって、そばにいたくなるようなオーラを放っているものですよね。しかし、精神的「ブサイク」は見た目が良くなっても「ブサイク」みたいな身もふたもない結論には落ち着かず、精神的「美人/イケメン」やそれを支えてくれる自己肯定感って、まわりがいかに手を差し伸べてくれるか、どれだけ愛情を注いでくれるかにかかってるところはあるよね、というテーマに着地するのはとてもよかった。人格形成はまわりの環境に負うところも大きいですからね。これもまたひとつの真理だと思います。

ここまではマクロの話ですが、「青春」というミクロの目線で見ても、結構おもしろいところを突いていたと思います。つまり、「隣の芝生は青い」ということ。なんでも他人と比べ、羨ましがり、あれが欲しいこれが足りないと大騒ぎし、いつまでも満ち足りない思いをするのが青春です。彼らにとって、自己肯定感は簡単に傷つきやすいものなんですよね。それは決して悪いことではない。純粋無垢で、諦めを知らないということでもあります。完ぺきな自分を追い求め、理想と現実のあいだでもがくのが青春であると定義することもできるでしょう。この誰にでもある「あの人のようになりたい」という渇望感にあえぐ海根さんの苦しみが、最後の方になってかなり切なく沁みてきます。「隣の芝生は青い」というのは、とどのつまり「隣の芝」でしかなく、依然として他者とのあいだには明確な分断があるわけですが、ふだんなら決して交わることのなかったであろう「ブサイク」と「美少女」が入れ替わることによって他者の苦しみに気づき、アイデンティティにも目覚めていくという一連の流れがスマートで納得感がありました。テーマがきちんと4人の成長に結びついているのがいいですね。良作でした。