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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「みんなわが子」感想:ただ黙って「疎開生活」を受け入れる狂気

こんにちは。じゅぺです。

今回は「みんなわが子」について。

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独立プロの映画は、今井正監督の「キクとイサム」「ここに泉あり」を見ましたが、どちらも素晴らしい作品でした。戦後の苦しい状況下で、なんとか人間らしさを保とうともがく姿が美しく、なんとも逞しいものでした。そこで今回は家城巳代治監督の「みんなわが子」をチョイス。こちらも大変な傑作でした。

映画は、目黒から山梨に疎開した小学生たちの終戦までの2ヶ月間を描いています。終戦から18年しか経っていないこともあり、疎開描写が大変生々しいです。子供たちは布団の虱に悩まされ、配給が滞ると絵の具を舐めて空腹を満たし、あげく先生たちも一緒になって農家から芋を盗み出したりします。もはや常識は通用しない環境になってしまっているんですよね。そして、大人も子供もただそれを"日常"として受け入れ、戦いに勝つ日を待っているのです。たとえ沖縄玉砕の報をラジオで耳にしたとしてもです。感覚が麻痺し、戦争の狂気を内面に取り込んでしまっているように見えました。

この映画の主人公は子供です。目線も彼らに合わせているから、けっして軍部批判とか、辛かった生活への怒りがドラマの土台にはなっていません。ただ、突然都会から田舎に放り出されて、苦しい毎日を送る姿を映し出しています。映画は、米軍の落とすビラから始まり、神輿を担いで終戦歓喜する子供たちで終わるのです。どちらかというと記録映画的なタッチで事実を描き取っていて、政治的なスタンスを極力排した、フラットな印象を受けます。

この90分の間には変化も成長もありません。単に子供たちはお腹をすかせ、親と離れ離れになったことを悲しみ、泥棒を働くようになっただけ。集団疎開になにかしらの価値を見出すということはしません。ひたすらに、無意味だったのです。戦後的な目線で評価しないからこそ、すなわち、無謀な戦争へ突き進んだことへの反省とか、愚かな軍部への批判がないからこそ、この戦争に意味は与えられず、かえって「無意味」だったことが強調されるのではないでしょうか。先生たちの「どうして最後まで戦わなかったんだ…!」『いや、こうなる前にもっと早く終わらせるべきだったのよ』のやりとりが虚しく胸に響きます。

聖戦を信じ、ひたすらに我慢を重ね、だんまり決め込んで現状を黙認した一人ひとりが、戦禍の被害者であると同時に、凄惨な侵略戦争の加害者でもあるのではないかと思います。この国は、ひたすら戦争の「悲惨さ」ばかりをクローズアップし、国民自らこの道を選んだことは忘れようとしているんじゃないか、少なくとも、その事実に不感になっているんじゃないかという気がしてならないです。