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「君の膵臓をたべたい」感想:実写版とアニメ版の桜良の解釈の違いについて

こんにちは。じゅぺです。

今回は「君の膵臓をたべたい」について。

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「君の膵臓をたべたい」は住野よるの小説を原作にしたアニメーション作品です。昨年浜辺美波北村匠海を主演に迎えた実写化作品が公開されました。これがとってもすばらしい作品でしたね。浜辺美波という女優の名前を世に知らしめた傑作だと思います。実写版は原作にはない大人時代のパートを加え、「僕」の成長をすこし違った目線から描いていましたが、アニメ版は原作をなぞって高校時代のパートのみで進行しています。こちらもアニメというメディアの特性を生かした良い作品だったと思います。実写版「君の膵臓をたべたい」のファンなので若干比較の目線が入ってしまいますが、以下、感想を述べてみようと思います。

難病という理不尽に向き合う桜良は「運命」を信じません。そんなことあってたまるかという想いでしょう。人生まだ何も始まってないのに、人生の方向性をすべて決められてしまっているんですから。死と向き合う桜良は、人生は全て「選択」の上に成り立っているのだと語ります。彼女の紡ぎだす言葉の切実さと、彼女と向き合う僕の関係は実写版より掘り下げられているんじゃないでしょうか。大人時代のパートがないので単純に尺の問題もありますが、なにより、桜良のキャラクターの解釈の違いだと思っています。浜辺美波の演じる桜良は控えめの性格で、難病の苦しみを抱えながら、その辛さを忘れるために空元気を出している、という印象でした。その無理して平気そうにふるまっている姿が痛々しくもあり、また、その健気さに心打たれるのでした。一方、アニメ版のLynnの演じる桜良のキャラクター造形はというと、どちらかというと初めから元気な性格で「陽」の面が強いですね。初めから明るさを前面に出しているから、むしろ、彼女が寂しそうにしていたり、孤独をかみしめている姿にギャップを感じて、胸がギュッと締め付けられる思いでした。実写版もアニメ版も死の恐怖と向き合いながら毎日を大切に生きている桜良に感動するわけですが、実写版は彼女の元気な姿に、アニメ版は元気がない姿に、彼女の孤独を感じるという、対照的なキャラクター描写になっていたのではないかと思います。このアプローチの違いはたいへん興味深いですね。

海に面した坂道の多い街というロケーションが良かった。これは実写版にはないポイントですよね。丘の上で二人のシチュエーションもロマンチックでした。一瞬一瞬が儚く思い出されます。花火のシーンは誰もがふれると思いますが、やはりいいシーンでした。青春に花火大会と夏祭りと文化祭は必須ですよね。あまりそういう経験がない僕でもなぜか「懐かしい」と思えてしまいますから。

最初から桜良の死が提示されている分、その時がやって来たときのショックは小さかった。でも、だからこそ彼女が僕との出会いでなにを得たのか、彼女の人生にとって彼と過ごす時間はどんな意味があったのか、というところを逆算的に考えさせられ、桜良の苦しみを思い胸がぎゅっとなりました。アニメ版は「桜良が最後の時間を僕と過ごす」という点にフォーカスを絞っていましたね。桜良の僕に対する想いや印象の変化とか、僕の他者への接し方とか、細かい気持ちの揺れと二人の交感も丁寧に描かれていて、実写版より見やすい印象を受けました。

理不尽な終幕を知りながら、それでも「わたしの人生はたくさんの選択の上に成り立っている」と信じられる桜良の強さに感動すると同時に、そう思うに至った経緯を想像すると、悔しい気持ちにもなりました。悔しいですよ、こんな素敵な考えを持つ人が早死にしてしまうんだから。フィクションなのに、そう思わされた時点で、僕はこの作品に負けたというか、惚れてしまったんだと思います。