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「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」感想:アメリカの輝かしい歴史に隠れた暴力性

こんにちは。じゅぺです。

今回は「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」について。

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ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」は"ブロードウェイの父"ジョージ・M・コーハンの伝記映画です。彼は軍歌や国威発揚ミュージカルで名を馳せた自分であり、彼の成功はナショナリズムプロパガンダと切っても切り離せません。また、この映画自体、アメリカが日本やドイツとの戦争していた1942年の公開であり、作品全体に「アメリカの価値」や「アメリカ人の誇り」を称揚するきな臭い雰囲気が漂っています。この政治的偏向性は見る人によっては大いにノイズになることでしょう。しかし、ある意味、華やかでパワフルなステージは、いま見ると全体主義的な危うさがあって面白い。見た目の勢いで粉飾された国粋主義。クールでいられなかった当時の空気感が閉じ込められているのではないでしょうか。まさに独立記念日に生まれた"愛国者"を時代が求めていたのです。

ところで、ゴージャスなミュージカルシーンも見逃せません。フレッド・アステアのうっとりするような優雅さとも、ジーン・ケリーの元気いっぱいな力強さとも異なるジェームズ・ギャグニーのパフォーマンス。小さな身体でクルクルと動き回るのがコミカルです。アステアはアーティスティックで職人的なところもあるけど、ギャグニーの動きはまさしく"芸人"といった趣ですね。僕は圧倒的にアステアの紳士らしさが好きなのですが、彼の育ちの良さとはかけ離れたコーハン=ギャグニーの生粋のエンターテイナーとしての魅力は、やはり捨てがたいですね。彼の俗っぽさがコーハンの才能と戦争に結びついた危うさの両面性をじゅうぶんに伝えているのではないかと思います。

全体的な印象としては「風と共に去りぬ」に近かったです。しかしこちらは圧倒的に"陽気"。ひたすら成功のみを信じて突っ走るコーハンはまさしく星条旗が象徴するアメリカの正義そのものでした。「風と共に去りぬ」が南部から見た「アメリカの正史」の裏側だったのに対し、「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」は当時の「アメリカの正史」を描いている(そして現代から見れば戦時中のアメリカの正義に隠された狂気を切り取る「負の歴史」でもある)点で、共通点もあり、対照的でもあります。どちらもアメリカの歴史のターニングポイントを描いた大河ドラマであると同時に、その輝かしさの裏側に隠された合衆国の暴力性も描いていてるのでないでしょうか。1942年に求められていたものがなんなのかおぼろげながら見えてきて、とても興味深い映画でした。必見です。