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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」感想:犯罪映画の枠で描く「カンニング」

こんにちは。じゅぺです。

今回は「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」について。

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「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」は、中国で実際にあった時間をモデルに、高校生による組織的カンニングを描くタイの青春映画です。

カンニングがテーマの映画とはなかなか珍しいですよね。しかも彼らのカンニング を犯罪映画の枠組みで描くのがおもしろい。彼らはまるで強盗が金庫を破って金品を盗むように、彼らは悪知恵を働かせて「点数」を盗みます。「オーシャンズ」や「グランド・イリュージョン」を彷彿とさせるスタイリッシュでスピード感のある演出でカンニングを見せてくれます。

他の犯罪映画と違うのは、監視カメラがいたるところにある美術館や、警備員のたくさんいる銀行の金庫ではなく、試験会場という閉じたシチュエーションで「作戦」が展開されるところでしょう。受験生は試験時間中、机から離れることはできず、許された動作範囲も非常に狭い。監督官の目線の動きや答えの「サイン」、鉛筆の芯が解答用紙の上を滑る音など、厳格に管理された静寂の中だからこそ、小さな動作のひとつひとつにドラマが生まれるのです。試験を受けているときのあの独特の緊張感や高揚感を思い出しますね。当然、カンニングをするにもすべてが作戦通りとはいかず、トラブルが起きるわけですが、見ていて本当に生きた心地がしません。冗談ではなく、手に汗握ってしまいました。特に終盤の「戦い」はすさまじく、見終わった後はぐったり疲れてしまいました。

犯罪映画の枠組みと青春映画の枠組みをアクロバティックにつなぐ物語の構成上の工夫もみどころ。単なる軽快なエンタメ作品には終わらないのです。悪事に手を染めたことに対する後悔や自責の念、持っている側の人間の驕り、持たざる側の人間の怒りや憤懣など、かなりドロドロした部分も描きこまれています。さらにはその背景にある貧富の差や搾取、大人の汚さなど、高校生が直面するにはあまりに残酷な社会の矛盾や理不尽もドラマに練りこまれていて130分ながら長さは全く感じない密度になっています。

あまり期待していなかった作品なのですが、とても新鮮で見応えのある映画でした。この監督の他の作品も見てみたいですね。