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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」感想:声を上げればなにかと叩かれがちなこのご時世に

こんにちは。じゅぺです。

今回は「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」について。

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「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」は、三木聡監督による音楽コメディです。主演は阿部サダヲ吉岡里帆。作品のテイストや俳優陣を見て勝手に宮藤官九郎映画だと勘違いしていました(そもそもクドカンのことはよく知りませんが…)。おそらく吉岡里帆は映画初主演だと思うのですが…残念ながら興行的にも批評的にも厳しい結果になってしまったようです。

本作は、パンクロック歌手・シンと声の小さいストリート歌手・ふうかの出会いと二人の成長を描くコメディ映画です。全体的に結構クセが強かったですね。特に笑いの質は好みが割れると思います。シュールでツッコミどころ満載、そして若干手作り感のあるチープな世界観が作品の空気を作り上げています。僕は園子温監督の「TOKYO TRIBE」や福田雄一監督の「50回目のファーストキス」を見たときの感覚を思い出しました。正直、演じている人が無理して暴れているような気がしてしまう。心から体を張って笑いを取りたいと思っているようには見えなかったんですよね。これはあくまで僕にはそう見えたという話なんですけど、恥じらいが透けて見えている。吉岡里帆はどこかで自分の可愛さを守っているんじゃないかと思いました。そもそも得意じゃないならあまり無理してやるようなことでもないような気もします。見てるこっちが恥ずかしくなってしまいますから。反対に阿部サダヲはいつもの阿部サダヲです。演技の作り込みに既視感を覚えましたが、彼のパフォーマンスがかろうじて作品の強度を維持していたと思います。

あと、後半の韓国のくだりがとても強引でした。「日本海を隔てた対馬と韓国」のオチを作るために用意されたシチュエーションになっています。だって東京から追手を振り切りながら韓国に逃げるとして、島根からフェリーで移動するでしょうか?その必然性の説明も一切なかったので、非常に強い違和感を覚えました(もし見落としてたらごめんなさい)。

韓国の集落のイメージも意味不明でした。北朝鮮ならまだわかりますけど、あれだけ貧しく描いてしまうのはあまりに韓国の現状からかけ離れていて、作品の世界観に入り込む上で大きなノイズになっています。花火工場という設定も、本当にそれ日本人が技術提供する領域だとは思えませんし(少なくともキャッチーではありません)。すべてにおいてクライマックスの対馬ライブに持っていくための雑な伏線に見えてしまうんですよね。タクシーのキスのシーンも響きませんでしたし。細かく詰める時間なかったんでしょうか。とにかく後半の展開はガッカリしてしまいました。ちなみにですが、ふうかの言葉づかいが「〜だわ」「〜なのよ」になっているのも、今どきの女の子の話し方としてはどうなのだろうと気になってしまいました。個人的にノイズが多かったのは残念です。

一方、作品を貫く「ロック」の柱は好きでした。声を上げればなにかと叩かれがちなこのご時世。まわりの声を気にせず、とにかく腹の底から叫びまくるシンとふうかがうらやましい。声を上げられない人の代わりにマイクを握る、この声を届けたい人のために、精いっぱい、血反吐を吐いてでも叫び続ける。声を上げたいのだったら声を上げろ。やらない理由を探すより、目の前のチャンスに必死にしがみつけよと。こういう青臭いメッセージを恥ずかしげもなく作品って絶対必要だと思うんですよね。耳が痛いな~と思ってしまいました。なんだかんだこの映画が伝えようとしていることは、見終わったあとも心の中に残っています。それだけに細かい部分が悔しいな~と思う映画でした。きらいじゃないんですけどね。