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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ファニーとアレクサンデル」感想:家族の崩壊と再生に触れる濃密な5時間

こんにちは。じゅぺです。

今回は「ファニーとアレクサンデル」について。

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「ファニーとアレクサンデル」は、イングマール・ベルイマン監督の作品です。ベルイマンの作品は「夏の遊び」と「野いちご」を見ました。どちらも素晴らしい作品でした。当ブログでも感想を書いていますので、よろしければご覧になってください。

「ファニーとアレクサンデル」はエクダール家の崩壊と再生を描く5時間超の大作です。5時間超の作品ながら飽きませんでした。その理由は3つあります。ひとつは、ジャンル横断的であること。もうひとつは、緻密に計算された映像美。そして最後に、先を読ませないストーリー展開です。それぞれについて触れていきましょう。

まず、ジャンル横断的であることについて。本作はエクダール家のファミリーヒストリーであることは大前提として、より大きな歴史的フレームで捉える叙事詩の一面があったり、密室監禁劇のゴシックホラーの一面があったり、さまざまな顔を持つ作品になっています。各チャプターごとに異なる面白さがあり、非常に見ごたえがあります。

そして、計算された映像美について。クリスマスパーティーのカラフルで豪華な装飾とヴェルゲルス家の白一色で殺風景な内装の対比、雪や雨、川の流れに象徴される一家や劇場の興隆など、ファニーとアレクサンデルの置かれている状況が、次々に起こる事件やシチュエーションだけでなく、画面全体の色調、テンポ、背景に見える自然や置物、服装、など映像のすべてに反映されています。僕が好きなのは、冒頭のお屋敷の内装を映す場面ですね。これが映画であることを忘れ、まるで本当にアレクサンデルとお屋敷の中を冒険しているかのような感覚に陥りました。まさしく映像に「浸る」体験です。

また、先を読ませないストーリー展開について。映画は一家のクリスマスパーティーから始まります。下僕、孫、祖母、それぞれが自分の「役」に徹しなければならない。それを受け入れる者もいれば、うんざりしている者もいる。エクダール家が演劇一家であることを考えると、大変面白い場面ですが、ここですでに崩壊の予兆があります。このあと起こるすべてのことの伏線が冒頭でばらまかれているんですよね。さらに重要なのは、ファニーとアレクサンデルの母が再婚し、司祭の家族になるチャプター。「現実と幻想」を巡るアレクサンデルとエドヴァルドの会話から、時代の大きなうねりの中で変質していくエクダール家と失われていく信仰心という本作のテーマが本格的に浮かび上がってきます時に幽霊も登場する。二人が対峙する場面がスリリングで最高でした。エドヴァルドは聖職者らしく荘厳で優しいオーラを出しているけど、やはりその裏には狂気と欲望が渦巻いています。それが言葉や目線の動き、表情の変化ににじみ出ていて、とても恐ろしかった。まさか密室監禁劇の方向に話が転がっていくとは思わず、驚きました。

ラストは、晴れ晴れしく希望を感じさせるものでした。これからどんな試練が訪れようとも、エクダール家のバトンは次の世代へ渡されていくことでしょう。アレクサンデルは今晩どんな夢を見るのだろうかという余韻を残しながら、この映画は幕を閉じます。また見返したいと思える作品でした。