映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「また逢う日まで」感想:敗戦から5年後の生々しさ

こんにちは。じゅぺです。

今回は「また逢う日まで」です。

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‪「また逢う日まで」は、戦争で引き裂かれていく男女の愛を描く作品です。監督は今井正今井正監督の作品は「キクとイサム」と「ここに泉あり」を見ました。どちらも戦争の爪痕を背景に、都市と地方の格差、そしてハンセン病患者など、社会で周縁化されたり、弱い立場に追いやられた人たちに寄り添う作品になっています。人間の根っこにある強さを信じるヒューマニズムに裏打ちされた清々しさがあるんですよね。

また逢う日まで」は「キクとイサム」「ここに泉あり」の2作より前に撮られており、舞台設定そのものが「戦後」ではなく「戦中」になっています。そのせいか反戦の主張が色濃く出ていました。敗戦からわずか5年後ですから、まだ日常のいたるところに戦争の傷跡が生々しく残っていたと思います。戦争によって徐々に狂っていく三郎の家族や、赤紙の恐怖に震え、やがて引き裂かれていくことになる三郎と螢子の姿を見て、当時の人々はどんなことを思ったのでしょうか。

特にあの残酷な幕引きには驚きました。三郎と螢子はそれぞれ空襲と徴兵によって、お互いのことを想ったまま、相手がもうこの世にいないことを知ることもなく虚しく死んでいくのです。この展開をフィクションとして楽しむには、やはり5年という時間は短い気がしなくもありません。しかし、犠牲になった人々の鎮魂の物語でもあると、納得もいきます。生き残った側の人間として、もう二度とこのような過ちを繰り返したりはしないのだぞと。少なくとも現代人の目線からこの映画を見たときに、そういう意味を読み取っても決して間違いではないのではないかと思います。

ところで、有名なガラス越しのキスシーンはとても切なくてよかったですね。ふたりのその後を暗示する不穏な場面にもなっていて、ただ美しいだけでなく、物語上とても重要な役割を果たしています。「今夜、ロマンス劇場で」の元ネタはこれだったのかと嬉しくなりました。

しかし、反戦色は強く感じ取ったものの、映画としては山場に欠ける作品だったかなと思います。盛り上がるのは、キスシーンとクライマックスの駅の場面ぐらいでしょうか。悪くないんだけど、それほど好きでもないかなという感じです。