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「アリー/スター誕生」感想:ブラッドリー・クーパー、主役を乗っ取る

こんにちは。じゅぺです。

今回は「アリー/スター誕生」の感想です。

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「アリー/スター誕生」は、これまで3度映画化されている「スタア誕生」のリメイク作品です。1937年版と1954年版の「スタア誕生」ではハリウッドスターを夢見る女の子が主人公ですが、「アリー/スター誕生」の主人公・アリーは1976年版と同様、歌手志望の設定になっていて、ウェイターをしながらドラァグ・バーでパフォーマンスをしていたところをスター歌手のジャックに見初められるお話になっています。

本国では落ち目だったレディ・ガガの華麗なる復活と転身を宣言する作品として非常に大きな話題を呼んだようですが、ざんねんながら日本では同じく音楽映画である「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットに押され気味です。興行的に苦戦してるのは日本ぐらいじゃないでしょうか。

事前の評判も高く、アカデミー賞を始め賞レースにも絡んでくるとの声も聞いていたので、とても期待していたのですが、正直微妙な出来でした。ブラッドリー・クーパー監督の才能を賞賛するレビューも多く見ましたが、僕はあまり納得いきません。初監督作品ということでプロなりに評価するポイントがあるのかもしれませんが…。ちょっと映画の中で自分を主張しすぎているのではないかと思ったんですよね。

主人公はアリーのはずなのですが、彼を支えるジャックの存在感がとても大きい。少し大きすぎるぐらいです。単なる一般人のアリーがスターの階段を駆け上がっていくシンデレラストーリーを楽しみにしていたのですが、そこは案外あっさりしていて、注目を浴びる中で生じる理想と現実のギャップや、夫への感情の変化、心の葛藤はそれほど深く描かれません。そのせいか、彼女のせっかくのパフォーマンスも必ずしも映画的盛り上がりと結びつかないものになっていると思います。歌は歌としていいんですけどね。

一方、彼女を引き抜いた結果、嫉妬や自信の喪失からアルコールに溺れ、どんどんボロボロになっていくジャックにはたっぷりと尺を割いていて、彼のアリーへの愛情や生来の心の弱さ、兄へのアンヴィバレントな感情が丁寧に描かれています。ブラッドリー・クーパーの演技も気合が入っていて、間違いなく彼のベストアクトでしょう。しかし、だったらはっきりと最初からジャックが主人公の話として使ってほしかったです。レディ・ガガじゃなくて初監督・主演の俺こそが主人公なのだ!と他人をどかしてまで主張しているように僕には見えてしまいました。

でも、良かったところもたくさんあります。「A Star Is Born」のタイトルの出し方は、これから始まる物語がアリーというスター誕生の神話なのだという堂々とした宣言になっていました。カッコよくて思わず鳥肌が立ちましたね。

そして何よりレディ・ガガの歌唱力!アリーの才能が開花する「Shallow」のパフォーマンスは圧倒的でした。彼女が歌うたび言葉にできない感動が押し寄せてきました。「Shallow」に限らず、ジャックとのデュエットや愛する夫への想いを乗せたクライマックスのパフォーマンスもすばらしく、レディ・ガガ、いや、アリーにしかできないレベルに達していました。これだけで映画館に行く価値はあります。また、弾き語りからダンスを交えたスタイルに変わっていく様は、テイラー・スウィフトを思い出しました。すこし意識しているんでしょうか?アリーのポップ・スターへの転身はジャック目線で「ダサい」ものとして描かれていましたが、これは正直微妙なところです。あの下品な歌詞はどうかと思いましたが、はっきり否定的なスタンスを取ってしまうのも違う気がしました。まあ、ジャックはアリーの自主性を尊重して喉まで出かかった言葉を引っ込めるんですけどね。

やはり全体として見るとあまり好きな作品ではありません。ちょっと期待値上げすぎました。「ボヘミアン・ラプソディ」もそうですが、一度スイッチが入ると減点式で見てしまうので、自分でも楽しみの幅を狭めてしまっているな〜と思います。今年は改めたいところです。