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「魔法にかけられて」感想:ディズニー・プリンセスの否定と再構築

こんにちは。じゅぺです。

先日「シュガー・ラッシュ:オンライン」が公開されました。この映画は「シュガー・ラッシュ」の続編でありながら、ディズニー・プリンセスの文脈でも語りうる批評性を持っている点で非常に注目すべき作品です。「白雪姫」をはじめとするディズニー・プリンセスの物語は、女の子に「白馬の王子さま」願望を押し付け、男性優位社会の価値観を固定化するイデオロギーに基づく作品として、フェミニストから厳しい批判を浴びてきました。ディズニーも一時の低迷期を経てこうした批判に対して自覚的な作品を発表するようになり、かつての保守的なイメージを打ち破る挑戦的な作品も多く世に送り出されています。中でも「やりすぎ」にすら思える作品が今回紹介する「魔法にかけられて」です。

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魔法にかけられて」は、おとぎの国のプリンセスがひょんなことから現代のニューヨークにやってきてしまうファンタジー映画です。ディズニーが「白雪姫」から続くプリンセスの物語を愛と皮肉たっぷりにアレンジしています。「いつまでも幸せに過ごしましたとさ…」なんてことあり得ないのだという、かつてのディズニー・プリンセスに真っ向から挑む内容になっています。

冒頭から「やり過ぎ」なプリンセスのパロディに爆笑します。動物とおしゃべりしたり、シュレックっぽいトロールと戦う王子様とプリンセス・ジゼルがひと目で恋に落ちたり、突然歌が流れ出したり。これでもかと「プリンセスあるある」をぶち込んでいます。ちょっと心配になるぐらいですが、楽曲は全く手を抜いておらず、あいかわらずハンパじゃないクオリティの高さです。一度聴いたら忘れないメロディ。「真実の愛のキス」は特に素晴らしいですね。大好きな曲です。

また、現代パートに入ってからもジゼルの過剰なテンションとお花畑っぷりとまわりの人間の冷めた感じのギャップが最高です。「プリンセスあるある」は現実の世界でやったらとんでもないホラーになりかねないんですね。ジゼルが歌をうたって「森のお友だち」を呼び寄せてみんなでロバートの家のお掃除をするシーンは、怖すぎて引いてしまいます笑 アニメならまだしも、実写でやられると、家の中で鳥やネズミがドタバタしているのは恐怖でしかありません。わざわざゴキブリを出すあたりも悪趣味ですね。なかなかにやりたい放題です。

ですが、ジゼルのピュアさは、単なるギャグで終わりません。しだいにスレた現代人の心を癒し、変化をもたらしはじめるのです。そして、おとぎ話を否定されて育ってきたモーガンに夢を与えます。ジゼルのまっすぐに人を愛し、疑うことを知らない純粋な心が、ロバートの人生の選択にも影響を与えます。冒頭から「お花畑」の否定で入りながら、愛を信じることの大切さとプリンセスの物語の価値を再度認識させてくれるのです。

魔法にかけられて」は、少々度を越しているようにすら感じられるプリンセスのカリカチュアを織り込み、過去作へのカウンターとしつつも、ディズニー・プリンセスのエッセンスを抽出して、本当の意味で現代にも通じる哲学を主張しています。私たちの誇りはここにある!と。単なる否定に終わらないのです。夢見る女の子との決別の物語でありながら、人を信じて諦めなければ、自分でより良い人生を掴むことはできるのだという再解釈が行われているのです。ディズニーはいつだって夢をくれます。

ただ、一方で「男と女が結ばれて幸せな家庭を築く」というオチに変化はありません。ディズニー・プリンセスを皮肉ってはいるけど、基本的な原型は壊していないんですね。その定型の破壊に関してはすでに「ムーラン」等があるらしいのですが、まだ見ていません。最近では「アナと雪の女王」や「モアナと伝説の海」も異性愛に深く立ち入らない内容になっていますね。その点に関してはディズニー・プリンセスの歴史を概観した記事をいつか書きたいと思います。