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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」感想:鹿野靖明の生き様から得られるヒント

こんにちは。じゅぺです。

今回は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」について。

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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」は筋ジストロフィ患者・鹿野とボランティアの1年間を描くヒューマンドラマです。主人公の鹿野を演じるのは大泉洋。彼を支えるボランティアのメンバーを高畑充希三浦春馬が演じています。

みなさんは筋ジストロフィをご存知でしょうか。僕も詳しくは知りませんが、全身の筋肉が徐々に機能しなくなるそうで、未だに治療法は見つかっていないようです。手足の筋肉ならまだしも、生命維持に欠かせない呼吸器官や心臓の筋肉も機能しなくなるため、最終的には死に至ってしまう病だと聞いたことがあります。

主人公の鹿野靖明は筋ジストロフィと闘った実在の人物です。残念ながら2002年に42歳の若さで亡くなっています。彼は重い持病を抱えながらも、家族や病院に頼らず、自分で集めたボランティアの力を借りて自宅で生活していました。「こんな夜更けにバナナかよ」はいわゆる「難病モノ」ではあるのですが、単なる「感動ポルノ」ではなく、鹿野靖明が筋ジストロフィでありながらいかに自分らしく生きたのか、という観点から非常に示唆の多い作品になっています。

鹿野は周囲に対し繰り返し「人はやれないことの方が多いのだから、迷惑をかけあって生きよう」と言います。これってものすごく大事なことだと思うんですよね。最近、日本のサラリーマンの有給取得率が世界水準で見ても最低レベルであることが報道されていたように、日本人はとかく「人に迷惑をかけてはいけない」という発想をしがちです。でも、本来は逆であるべきだと思います。「だれかに嫌われそうだから本音は隠す」なんて圧力がそこら中ある社会なんて生きづらいです。自分にも他人にも厳しくして他人に頼らないことにこだわる人より、自らの足りなさを自覚して他人に支えてもらっていることで自分は生きていられるのだと認識している人の方が、よっぽど「自立」しているのではないでしょうか。人にたくさんお世話になっているのに、全部自分の力で頑張っていると信じ込むような人は、僕は信頼できないと思います。なので鹿野の言葉にはもう何度もうなずいてしまいました。

しかし、鹿野がボランティアに支援してもらって自立生活を送ることができるのも、ひとえに彼の人柄だと思います。要するに人たらしですね。自分の障害すら笑って他人を励まして周囲を笑顔にする、その優しさに惚れます。自分の弱さを自覚して、人に優しくできるって強いなと思います。僕は自分のこと周りによく見せたいと思ってしまいがちです笑 彼のように「助け合い」ができる人が一人でも多く増えたら、みんな幸せですよね。もちろん楽しいことばかりではないけれど、悲しい現実が背景にあっても笑いあって過ごせるって最高だと思います。

この映画の魅力は鹿野靖明の生き様であり、それをまっすぐ伝えることができれば正解だと思います。正直なところ映画としては「普通」であり、脚本や演出に巧みさは感じられませんでした。

しかし、俳優陣は存在感たっぷりの演技を見せてくれて素晴らしかったです。主演の大泉洋は、普段の飾り気のない飄々とした佇まいと鹿野靖明のキャラクターがマッチしていてはまり役でした。最初から最後までわがまま放題な人なので、ともすると「ウザい」感情を抱かれがちですが、そこを絶妙なバランスで愛らしい人間に仕上げていました。

美咲を演じる高畑充希も最高でした。彼女は本当に演技が上手いと思います。特に「間」の取り方がリアルです。彼女ってちょっとぼやっとした顔をしていますが、シリアスな瞬間にパッと表情が変わったり、緊張感のある溜めを作ったりするんですよね。鹿野のプロポーズの場面や田中との屋上での喧嘩の場面はゾクゾクしてしまいました。

あとダルダルのネルシャツをインしてもダサすぎないバランを保てる三浦春馬って、すごいですよね。「SUNNY」でもロン毛のDJをやっていましたが、90年代風の男のファッションをギリギリ見られるレベルで着こなせるのは、彼ぐらいかと思います。彼が演じる医学生・田中の葛藤と成長もよかったですね。

本作は鹿野、美咲、田中の3人の主人公にまんべんなくスポットライトが当たっていて、バランスが良かったと思います。その分テンポ感が失われている部分はありましたが。予告編で期待されるレベルの満足感は得られる作品だと思いました。