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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ハード・コア」感想:アウトローたちの居場所

こんにちは、じゅぺです。

今回は「ハードコア」について。

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「ハード・コア」は、行くあてもなく埋蔵金探しで日銭を稼ぐ右近と牛山が、不思議なロボットに出会うダメ男たちのファンタジーです。非常に独特な世界観の作品になっていて、このノリについていけないと相当厳しいだろうなと思いました。僕も気持ちが乗るまでは、なんだか妙な映画を見にきてしまったなと思っていました。

作品全体としては、おかしな事件が次々と起こるわりに、物語の歩み自体は遅く、かなりゆるっとした時間感覚です。山下敦弘監督の作品は「リンダ・リンダ・リンダ」や「もらとりあむタマ子」など、緩やかな時間の流れの中で描かれる日常とオフビートな笑いが持ち味だと思っているのですが、「ハード・コア」はその部分のクセがさらに強くなっている印象です。

で、どうしてこうなるのかというと、もちろん地下から高性能ロボットのロボ男が発見されるという設定の荒唐無稽さもあるのですが、なにより右近と牛山の変人っぷりが理由ではないでしょうか。右近は気に入らない人がいればぶん殴る。牛山は何もできず悲しそうな顔をする。ロボ男はそんな二人を守る。傍らで見守る左近は彼らのカウンターであると同時に、自分の生き方に疑問を感じていなくもない。延々掘っても見つからない埋蔵金みたいに「いつかきっと」と思いながら毎日を送る苦しさに押しつぶされそうにながら、彼らは生きています。

彼らは自分の気持ちに素直すぎるのです。すごく純粋な感性の持ち主だと思います。だからこそ、と言うべきか、あまり社会に適応するのは上手ではないようで、あと一歩のところでチャンスを逃がしてしまう。せっかく埋蔵金を発掘しても、お世話になった人への柄と感謝の気持ちがあるから、自分だけ幸せになろうって思えないんですよね。この間の悪さは「男はつらいよ」の寅さんを思い出します。友だちにならないかというと微妙なラインの変人だけど、核にあるまっすぐな気持ち、世間に馴染めない純粋さに、スレた僕たちはある種の憧れを抱くのです。ああやって生きられたら、幸せだろうなって。彼らは彼らの悩みや苦しみがあるんですけどね。「寅さん・ミーツ・ロボ男」な作品と言ってもいいかもしれません。

また、右近が叫ぶ「間違ってることを間違ってると言ってなにが悪いんだ」との言葉は、声を上げれば叩かれる昨今の風潮への抵抗にも取れます。毎日いろんなことに我慢を覚えてモヤモヤしながらも、カウンター側になる勇気もなく、結局我慢してしまう僕からすると、右近や牛山のアウトローな生き方は、ちょっぴりカッコよく見えます。いいじゃないですか、どこにあるかも知らない島で原始人生活。でも、彼らが救われる場所は、この日本にはなかったのかなとも思ってしまいますね。あのままみんなで埋蔵金生活をしても、彼らは幸せになれなかったのかもなあって。清々しく多幸感を覚えると同時に、切なさを漂う作品でした。