映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

【美術展】「ムンク展」に行ってきました

こんにちは。じゅぺです。

先日、上野の東京都美術館で「ムンク展 共鳴する魂の叫び」に行ってきました。たいへん話題になっている展覧会で、僕が行った日も入場するだけで30分待ちでした。時間帯によっては90分待ちの時もあったそうです。すごい人気ですよね。

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今回の展覧会は、もちろん「叫び」です。

こちらは「生命のフリーズ」という一連の作品のひとつに位置付けられておりまして、あの独特の血を指でなぞったような渦巻く夕日を背景にした作品は他にもあるのです。僕は今回の展覧会で初めてそれを知りました。メインディッシュとあってたくさんの人が絵の前に集まり、熱心に鑑賞していました。

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(こちらの連作は展示会にあったものとは別バージョンです)

でも、僕が感動したのは「叫び」よりも、上の写真の真ん中にある「不安」でした。「叫び」で描かれている男の人って、表情もデフォルメが効いているし、結構かわいいじゃないですか。それがいいんですけど、期待していた禍々しさとはちょっと違ったんですね。

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一方、「不安」の橋の上に並ぶ男女は、のっぺりと生気を失ったような表情をしています。さらに、木版の荒削りな凹凸が質感として残っているから、その顔がまるで仮面のように見えてくるのです。不気味さではダントツでしたね。

他にもいくつかお気に入りの絵を見つけました。

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「ブローチ、エヴァ・ムドッチ」は、この憂いを帯びた妖艶な目つきに惹かれました。少し厚めで眠たそうなまぶた、まっすぐだけど頼りなげな鼻筋、あまり多くを語りそうにはない薄い唇、そして、彼女の存在を誇示するかのように大きく広がる髪の毛。思わず絵の前で足を止めてしまいました。この絵には魔力があると思います。

 

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「浜辺にいる二人の女」は、フィヨルドのウネウネした海岸の形(「叫び」のモチーフにもなっていますね)がとても面白かったです。手前に転がってる岩も丸くてかわいいですね。水平線の向こうに浮かぶ月に、なんとも言えない不安を感じました。ムンクは繰り返し「白夜」をモチーフにした絵を描いています。僕は北欧に行ったことがないのでわかりませんが、こうやって見ると非常に不思議な感覚になりますね。地域性があって興味深いです。

 

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「渚の男たち」も面白い絵でした。彼らは果てしなく続くノルウェーの海の向こうに何を見るのでしょう。人生に思い悩んでいるんでしょうか。それとも恋煩いでしょうか。フェリーニの「青春群像」に似たようなショットがあることを思い出します。メランコリックな青年と浜辺の組み合わせは、繰り返し利用されてきたモチーフなのかもしれませんね。

 

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「接吻」もいくつか置いてありましたが、それぞれに異なるアプローチをしていて面白かったです。接吻を交わし、境界線を失っていく男女に強い「愛」を感じます。一体になっていく喜びや恍惚がよく表れていると思います。抽象画にも近い表現です。これほどまでにストレートかつロマンチックに「愛」を表現するなんて!とても気に入りました。あと、絡み合う男女のシルエットは、同世代の画家クリムトの作品にとても似ています。どのような関係があってムンククリムトが同じような絵を描いているのか、とても気になります。

 

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ここまでは屋外を題材にした開放的な絵が多かったのですが、娼館を舞台にした非常に閉鎖的で息苦しい絵もムンクは描いています。こちらは「すすり泣く裸婦」です。無造作に投げられた脚と乱れた髪の毛に、彼女の負った心の傷と絶望の深さを感じ取ることができます。この他にも娼婦をモデルにした作品が数点ありましたが、他と比べても圧倒的に陰鬱で、強い負の引力を感じました。狭っ苦しい部屋の中で、自由を奪われた人。鑑賞しているだけで息が詰まりそうになりました。

 

最後に置いてあったのが「自画像、時計とベッドの間」です。ここまであまり触れてきませんでしたが、ムンクは波乱万丈の人生を歩んでいます。幼い頃には姉を亡くしていますし、恋人の口論の最中に銃が暴発し、指の一部を失っています。世間の名声が高まる中で、精神病院に入っていた時期もありました。これらの出来事は彼の作品に大きな影響を与えているようです。

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この作品は「子どもたち」と呼んだお気に入りの作品を背景に、ポツンと佇むムンクが描かれています。死やベッドは否応なく「死」を連想させますが、さまざまな苦難を乗り越え、自らの壮大な物語に幕を閉じようとするムンクの姿に、僕は彼なりの誇りを感じ取りました。

この世を去った後も、ノルウェーに限らず、世界中で愛されているムンクの作品たち。ぼくが生まれるずっと前に、遠い海の向こうで、白夜の月を眺めながら描かれた作品をいまここで鑑賞しているということが、とても不思議に感じられました。人類文明が続く限り、ムンクの作品は世界中の人びとに、受け継がれ、たくさんの感動を与えていくことでしょう。大満足の展覧会でした。