映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「洲崎パラダイス 赤信号」感想:男と女の不合理

こんにちは。じゅぺです。

今回は「洲崎パラダイス 赤信号」について。

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洲崎パラダイス 赤信号」は、男を頼って享楽的に暮らす蔦枝と、カタギに生きようともがく義治の二人の関係性の揺らぎと変化を描く、川島雄三監督の作品です。

この映画に出てくる男と女って、非常に諦めが悪いんですよね。いつまでもダラダラと決断ができない。手遅れになってから動き出しては、後悔している。しかし、そんな二人だからか、不思議と波長が合うんですよね。特別仲がいいわけでもなさそうだし、わかりやすく愛の言葉をささやき合うわけでもない。ただ、お互いが相手を求めあっているのです。金八先生じゃないですが、ちょうど「人」という感じのように、相手に体重を預け、寄っかかることによってまっすぐ立つことができる。そういう関係性なのだと思います。

そして、そのイメージを増幅させるかのように度々登場するのが「境界」です。あちらに行くべきか、それともこちらに止まるべきなのか。勝鬨橋、寿司屋のふすま、そして洲崎パラダイスの門。あちらとこちらの境は、蔦枝と義治の関係のこれまでとこれからを象徴しており、洲崎パラダイスの門は、蔦枝が身を売る仕事に就くか否か、義治がそのことを認めるのかどうか、という未来の選択を迫るモチーフになっています。どうせ一緒にいてもお互い暗い顔になって、ケンカばかりのくせに、二人はその境界を前に戸惑い、悩みます。その一線を越えれば違う未来が見えそうなものなのに。人間ってなんて不合理にできてるんだろうと感じずにはいられません。そして、それこそが人間のリアルなのだと思います。

水商売崩れの蔦枝を演じる、新珠三千代の四角いおでこがなんとも色気にあふれていました。特に、男に買わせた黒の着物を身にまとったときの美しさ!三橋達也の演じる義治も、女追いかけてお腹すかせてぶっ倒れるなんて、本当に情けない、甲斐性ないって捨てられるのもわかる。でも、嫌いになれないんですよね。演者の顔の良さもありますが、周りに放っておかせない天性の引力みたいなものを感じます。

諦め悪くて未練たらたら。そんな二人は「死」を目前にして吹っ切れる。バカだなあと思います。結局、二人で一緒にいる未来を選んで、勝鬨橋の上でどんよりと沈んでいるのですから。それでも、バスに飛び乗り、とりあえず次に行こうと進んでいく二人はたしかに今を生きています。そこにもう後悔は感じられません。なにか吹っ切れた明るさを感じます。不思議なハッピーエンドです。「天使の入江」を少し思い出しました。人に勧められて見たのですが、すばらしい大傑作でしたね。いずれまた見返したい作品です。