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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「5時から7時までのクレオ」感想:絶望をめぐる2時間

こんにちは。じゅぺです。

先日、フランスの著名な作曲家、ミシェル・ラグランが亡くなりました。彼は映画音楽で数多くの功績を残しており、「ロシュフォールの恋人たち」や「シェルブールの雨傘」の作曲が有名です。今回はそんな彼の関わった映画の中から、作曲だけでなく出演も果たしている作品「5時から7時までのクレオ」の感想を書きたいと思います。

↓左のピアノ弾いてるおじさんがミシェル・ルグランです。

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「5時から7時までのクレオ」は、死の恐怖に怯えるクレオが、パリの街をさまよう2時間を描くアニエス・ヴァルダ監督の作品です。クレオが経験する2時間が、ほとんどそのまま観客の体験する2時間と重なる構成になっています。

主人公のクレオは、ひょんなことから自分が大病に罹っており、近いうちに死が訪れるという恐怖に支配されるようになります。オープニングシークエンスのカード占いの場面はフルカラーなのですが、占いの結果でクレオが自分の死を確信した途端、画面がモノクロに切り替わる演出になっています。一瞬で目の前の世界が暗転するクレオの心理を体感できるわけですね。スタイリッシュかつエキセントリックで楽しい演出です。

身近に迫る死をテーマにしていながら、この映画はどこかあっけらかんとしていて、不思議と暗さは感じません。それはおそらく通りを行き交う人びとそれぞれにドラマがあるのだ、という当たり前のことを強く感じさせられらからではないかと思います。この映画は、一直線に時間を進めつつも(回想シーン等はありません)、クレオ以外の人物の目線からも世界を切り取っているんですよね。結論から言えば、クレオを襲う脅威は完全な杞憂で、たった2時間のあいだ人生に絶望していただけなのです。後から振り返ればつまらないことで悩んだり、本人とってはすごく深刻でも、他人から見ればちっぽけなことで苦しんでいたり。目線が変わるだけで、見える景色もがらりと変わるもの。そう考えると、仕事をこなし、恋人と会うなにげない日常が、とても愛おしい。歌のレッスンの場面が好きです。清々しい作品でした。大傑作です。