映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

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「知らない、ふたり」感想:心のなかの居場所の探り合い

こんにちは。じゅぺです。

今回は「知らない、ふたり」について。

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「知らない、ふたり」は今泉力哉監督による恋愛映画です。今泉力哉監督といえば、「恋愛映画の騎手」という紹介をされることも多く、今年には角田光代原作の「愛がなんだ」と伊坂幸太郎原作の「アイネクライネナハトムジーク」の公開が控えており、大ブレイクするんじゃないかと密かに期待している監督です。とはいえ彼の作品はひとつも見たことがなかったので(残念ながらソフト化されていない作品もちらほら)、今回はHuluで配信中の「知らない、ふたり」をチョイスしました。

本作は7人の男女の恋模様。一度しか会っていない、名前も住む場所も知らない男に一目ぼれして、町中を探し続けるソナ。一方、その男・レオンもソナのことが忘れられない。しかし、彼の同僚・小風はレオンに密かに想いを寄せている…複雑に絡み合う恋の矢印とその行く末が見どころです。

7人というのは、奇数なのでぜったい誰かが余る、被ってしまう部分が出てくるんですよね。この「あふれる」がキーになっていたと思います。象徴的なのは、レオンがいつもお昼ごはんを食べに来ているベンチです。きちんと座れば3人は座れそうなスペースに、ソナが寝転がっていたことで、レオンはくつろぐ場所を失ってしまう。この映画に出てくる7人は、ベンチに座れないレオンみたいに、気になる人の心の中には自分ではない誰かが居座っていて、入り込むことができない。しかも、本人はそのことに気づいていなかったりする。全体像を知るのは観客だけなのです。人が人に恋することの愛おしさや滑稽さがこのすれ違いにはあると思うのです。

そして、すれ違うのは片思いの矢印だけではありません。長年一緒にいても「知らない」ことだらけ。本心で言ったつもりではないのに相手を傷つけてしまったり、言えなくても言えないことを察してあげられなかったり。すれ違いは、恋が実って、やがてそれが愛になったとしても起こるものなのでしょう。

7人の恋が交差しあう複雑なお話ですが、人と交わることのもどかしさをちょっと俯瞰して見られる面白さがあると思います。主演の韓国人たちはどうやらアイドルグループのメンバーらしいのですが、単なるアイドル映画に終わらせず、演者の魅力を引き出そうとする演出に、今泉監督のこだわりを感じました。おすすめです。