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「スパイダーマン:スパイダーバース」感想:君は一人じゃない

こんにちは。じゅぺです。

今回はソニー製作のアニメーション「スパイダーマン:スパイダーバース」の感想です!

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スパイダーマン:スパイダーバース」は、ピーター・パーカー亡き後のニューヨークを舞台に、ブルックリンに住む少年マイルスと異世界から現れたスパイダーマンたちがキングピンの陰謀を止めるべく共闘するアクション映画です。

いちばん最初にこの企画のニュースを聞いた時は正直「またスパイダーマンかよ?」と思いました。その頃はもうスパイダーマンのMCU合流も決まっていましたし、なんどもリブートを重ねているこのシリーズをアニメ化とはついにネタも尽きたかと失望もしていました。しかし、製作と脚本に「LEGOムービー」のフィル・ロードクリストファー・ミラーが関わることを知り、一気に期待値が高まりました。メタ的な視点を交え、革新的な映像でまったく見たことのない映画を見せてくれるトップクリエイターの二人ですから、ハズレになるはずがありません。じっさい、アニメ史を根底から変えてしまいそうな大傑作が誕生しました。

 

アニメーションというより「動くコミック」

スパイダーマン:スパイダーバース」の本公開は3月8日からなのですが、1日から3日間限定でIMAX先行上映が行われていました。僕も8日まで待てず、普段ならケチって行かないIMAX3Dで見てしまいましたよ!それが大正解だったんですね。とにかく、とにかく映像がすごい。見たこともない「動くコミック」の世界が目の前に広がっていました。

スパイダーマンをはじめ、キャラクターはいかにも最近のアメリカのアニメーションらしい3Dのモデリング。背景の街並みもPC版のシムシティみたいにほどほどのデフォルメを効かせつつ、細かい部分はリアルに作り込んだ実在感あるデザインになっています。

しかし、色づかいや影のつけ方はベタ塗りっぽいコミック風のポップさを強調していますし、動きもあえて滑らかになりすぎずカクカクとした像が残るようになっています。炎や爆発のエフェクトも2Dになっていて(「LEGOムービー」のブロックの煙を思い出します)、独特の味わいを生み出しています。コマ割りやキメ絵、効果音までバッチリ再現していて、本当にコミックのページの上で絵が動いているかのような感覚になります。想像を超えるアイデアと抜群のセンスの数々にノックアウトされてしまいました!

異次元世界のキャラクターが違和感なく画面に同居しているのも驚きです。おそらく相当綿密な調整が行われたんでしょうね。バラバラなのに統一感がある、しっかり異世界の融合が果たされているのは、本当に信じられない奇跡だと思います。またもしかしたらスパイダーマン終結の前に二人羽織のように極端にデフォルメされた怒り肩のフィスクが登場するから、難なく受け入れられたのかもしれません。アニメーションならではの表現です。実写だったらおそらく不可能でしょうね。

 

みんなのヒーロー、みんなの友だち

スパイダーマン:スパイダーバース」はある種のパラレルワールドモノですので、当然過去のコミックや実写化作品への目配せが多数あります。非常にハイコンテクストな作品ではあるんですね。知らなくても問題ないけど、知ってればなおのこと面白いポイントが数え切れないほど出てきます。僕もたぶん半分ぐらいしか拾えてないでしょう。

でも、誰もがスパイダーマンというヒーロー自体は知っています。この映画がレーダーに引っかかる時点で、だいたいの人は遺伝子改造されたクモに噛まれて能力が覚醒し、自分の過ちのせいで大切なベンおじさんを喪くし…というオリジンは知っていることでしょう。もしかしたらいまどきはアパレルやグッズ経由でスパイダーマンに入る人もいて、ストーリーは知らないけどとりあえず見に行こうなんて人もそこそこいるかもしれません。みんなどこかでスパイダーマンに触れたことがあるんですよね。そういう状況において「スパイダーマン:スパイダーバース」は世に送り出されたのです。

つまり「スパイダーマン:スパイダーバース」って、スパイダーマンというコンテンツの人気や知名度への信頼がないと成り立たないのではないかと思うのです。あの映画の世界でニューヨーク市民がスパイダーマンを愛するように、彼はもう現実の世界でもみんなのヒーローなのです。そういうメタ的な見方をすれば、観客のあるこの世界もまた「ユニバース」のひとつと言えるかもしれません。

 

過去と向き合うこと

スパイダーマンの魅力って結局なんなのでしょう。その定義は人によって違うと思います。しかし、僕がこのキャラクターに惹かれる理由をあえて挙げるとすれば、それは喪失の痛みを受けいれ、大いなる力を困っている人を助けるためにささげる、若干の痛々しさの混じった心の強さです。取り返しのつかない過去の失敗を十字架として背負いながら、「親愛なる隣人」たらんとする姿勢。ニューヨークの人びとは華麗に摩天楼をスイングし、悪党どもを倒す姿しか知らないけれど、本当はマスクの下はいつも傷ついている。誰が見たって応援したくなりますよね。

で、今回「スパイダーマン:スパイダーバース」においてとくにクローズアップされていて、しかも僕のツボでもあるのが、「取り返しのつかない過去」というテーマです。ピーター・パーカーがベンおじさんを見殺しにしてしまったオリジンとグウェン・ステイシーを助けられなかったエピソードはあまりにも有名ですが、ほかのユニバースからやってくるスパイダーマンたちもピーターと同じようなトラウマを抱えています。そして、永遠に拭い去れない重荷を背負うことになるのは、主人公のマイルス・モラレスも同じです。彼らは深く傷つき、その痛みを胸の奥にいつまでも抱え続けています。それでも、みんな前に進むんですよね。いちど覚悟を決めたら後ろは振り向かない。自分ならできる、くじけず戦えると、強く信じてるんですよね。

非常に面白いのは、対するヴィランのキング・ピンが、スパイダーマンたちと真逆であることです。彼は愛する妻のヴァネッサと息子が離れていってしまった事実をずっと受け入れられないでいます。二人を取り戻せるなら、時空が乱れて世界が崩壊したっていい。あくまで純粋なその動機は責める気にな!なかったりもするのですが、キング・ピンはマイルスたちの「IF」の姿なのであり、だからこそスパイダーマンたちは彼を倒さなければならないのです。登場時間はそれほど多くないけど、非常に存在感のあるヴィランだったと思います。生身でタクシー持ち上げるし。

 

「君は一人じゃない」

ここまでスパイダーマンとはなんなのかを考えてきましたが、「スパイダーマン:スパイダーバース」でもっとも大事なのは「君は一人じゃない」という強烈なメッセージなのではないでしょうか。ひょんなことから力を手に入れた新米スパイダーマンのマイルズくんの成長がとても頼もしい本作ですが、これもピーターたち先輩ヒーローとの交流がなければなし得なかったことでしょう。思えば、ソニー単独製作だったライミ版もアメイジングシリーズもピーターは常に孤独でした。仲間のヒーローもおらず、たった一人で敵に立ち向かい続けていたんですね(MCU版は最初からそばにアイアンマンがいました)。「スパイダーマン:スパイダーバース」でも、冒頭に死亡するピーターやその遺志を受け継ぐマイルスはたった一人のヒーローでした。しかし、ピーターBやグウェンがこの世界にやってくることで、マイルスには仲間ができるんです。そして共に戦う中で痛みを分かち合ったからこそ、叔父さんの死も乗り越えることができました。ここで芽生えた絆は、たとえみんなが違う次元に散り散りになったとしても、途絶えることはないでしょう。この絆はきっと、愛する妻と別れてしまったピーターBや、親友ピーターの死を機に友だちを作ることをやめたグウェンたちにとっても、強い支えになるはずです。そしてなによりスパイダーマンを愛する観客たちにとっても大きな励みになります。孤独に戦うヒーローに自分を重ね、日々の違和感に抗う者にとって、「君は一人じゃない」と声をかけられることが、どれだけ力になることか。ただスパイダーマンがいっぱい出てくるだけではなく、そのことによってしか伝えられないメッセージが込められている「スパイダーマン:スパイダーバース」。とんでもない大傑作でした!