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「アリータ:バトル・エンジェル」感想:「人間らしさ」とは?

こんにちは。じゅぺです。

今回は「アリータ:バトル・エンジェル」のレビューです!

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アリータ:バトル・エンジェル」は鉄くずの山から拾われたサイボーグ戦士・アリータが、荒廃した世界で誰よりも"人間らしく"成長していく様を描くSF映画です。直前になって公開時期が12月から2月に移ったり、本国アメリカでは期待を下回る興行成績をたたき出し、もはや赤字回避の頼みの綱は中国でのヒットのみになるなど、なかなか不穏なニュースが多い作品でしたが、フタを開けてみればそこそこ楽しめる内容でした。サイバーパンクな世界観のディテール、特にガジェットのフェティッシュな魅力に加え、ピュアな美少女戦士という設定もあり、「刺さる人には刺さる」タイプのジャンル映画と言えるのではないでしょうか。だからこそアメリカで当たらなかったのも納得ではあるのですが…。

 

アリータ:バトル・エンジェル」のあらすじ

アリータ:バトル・エンジェル」は、火星人による侵略戦争で荒廃し、地球最後の空中都市"ザレム"からあぶれた大多数の人間は地上のスラムで暮らしている殺伐とした未来が舞台です。人びとは生活や贅沢のために犯罪に手を染め、暴力で生き抜こうとジャンク品で全身を改造するなど、かなりすさんだ社会になっています。そんな中、完全に記憶を失った状態でザレムから廃棄されたジャンクから発見されたのが主人公のアリータ。善良な医師・イドとその看護師の助けを借りて現代に蘇った彼女は、イドの手伝いをする少年・ヒューゴと町の生活を満喫する中で、徐々に自分が何者かを知っていくことになります。

 

腐りきった世界

この映画ってアリータの可憐な見た目とは裏腹にとっても残酷で容赦ないんです。サイボーグであるのをいいことに、キャラクターの腕や足はバサバサと切り落とされます。ヒューゴなんて体がバラバラになって、アリータの掴んだ腕ごともげて空から落ちてしまうんです。アリータだって一度頭と胴体の一部を残して八つ裂きにされています。生身の人間だったらと思うとゾッとします。けど、血さえ流れなければいいというわけではありません。そこには絶対に痛みや苦しみがあるはずですが、この世界では身体は修理可能なもので、死にかけたって機械化すればいいという価値観でまわっています。生命というものを非常に軽く扱っているのです。

この世界には賞金首のグリシュカをはじめ、半分体が機械に置き換わった人がたくさん登場します。そして彼らは他人を殺してお金を稼ぐことにしか興味がないし、目の前に苦しんでいる人がいてもまったく興味を示しません。のちにアリータの恋人になるヒューゴだって、ザレムに暮らすという叶わない夢のために罪なきサイボーグたちを襲い、バラバラにしてしまいます。一帯を取り仕切るベクターも、他人の人生を踏みにじることに微塵の罪悪感も抱いていません。この世界では、善人ですら悪事に手を染めてしまうのです。

 

「人間らしさ」の倒錯

そんな腐りきった世の中で、ただひとりアリータだけが人を信じ、愛する心を育んでいきます。彼女の正体は、火星人の生み出したサイボーグでした。異様に目が大きかったり、そのほかのサイボーグとスペックが段違いだったりするのは、彼女が地球を滅した「最終兵器」の一人だったからなんですね。でも、彼女は誰よりも「人間らしい」存在なと思います。チョコレートをうれしそうに頬張る姿は無邪気な子どもそのものだし、ヒューゴを見つめる瞳には年頃の女の子の輝きがあります。勇敢な戦士の顔も、可憐なティーンエイジャーな顔も見せる彼女は、ほかのサイボーグ戦士とは明らかに違うんですね。彼女の心には「愛」があります。それはきっとイドやヒューゴといった心優しい人たちに囲まれてこの世に生を受けたからでしょう。ここに、サイボーグの身体を持ち、しかも地球の人ですらないアリータこそが最も「人間らしい」という倒錯があります。なにが人を人たらしめているのか?愛のない人間は「人間らしい」と言えるのか?が「アリータ:バトル・エンジェル」のテーマなのではないでしょうか。

アリータ:バトル・エンジェル」は、アリータが愛を知り、"生身"の人間として強くなっていく物語です。続編の製作が危ぶまれていますが、もっともっとアリータの成長と冒険を見たい。そう思わせてくれる、優しい映画でした。