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「アメリカン・グラフィティ」感想:特別な高揚感と熱気に包まれた「最後の夏」

こんにちは。じゅぺです。

今回は青春映画の金字塔とも言われる「アメリカン・グラフィティ」について。

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アメリカン・グラフィティ」は、旅立ちを控えた若者たちの一晩を取りとめもなくつづる青春映画です。監督はジョージ・ルーカス。タイトルの通りグラフィティ(落書き)のように、荒削りのスケッチで4人の少年を軸にした群像劇を描いています。

ジョージ・ルーカスといえば「スター・ウォーズ」シリーズですよね。「アメリカン・グラフィティ」は「新たなる希望」より前に製作された作品ですが、ルーク・スカイウォーカーの冒険の原点ともいうべき内容になっています。

高校を卒業し、新しい生活を目前に控えたカートたちは、愛車に乗って地元の街を当てもなくさまよいます(アメリカの高校生の青春には車があって羨ましいです笑)。僕は彼らの気持ちが痛いほどわかるんですよね。いつまでもこの時間が続くようで落ち着かない。どこか遠くへ飛び出せたらいいのにと身体中が疼く感覚。落ち着きのない彼らの行動は、田舎のせまっ苦しさと、彼らの外へ外へと肥大化していく気持ちの表れだろうと思います。夜中に街に繰り出すだけで特別な高揚感と熱気を感じていた少年時代最後の夏。ここには、喉から手が出るほど欲しくても、今では絶対に手に入らない喜びがありました。

これって実は「新たなる希望」の冒頭と全く同じなんですよね。タトゥイーンに暮らすルークは、いつか農場を出て学校で勉強をしたい親代わりの叔父さんと叔母さんに繰り返しお願いをしていました。なにもない砂漠での生活に飽き飽きし、自分の本当の居場所はここではないはず、もっと広い世界に羽ばたけるに違いないと熱い想いを胸に秘めているのです。しかし、地元の縛りは想像以上に強く、夢は叶わないかもしれないと半ば諦めています。そんな時に彼が遠い目をして二つの夕日を眺めるシーンは映画史に残る名シーンです。溜まり場といえばカビ臭いゲームセンターと薄暗いダイナーしかない地元をぐるぐると気持ちを紛らわすかのように回り続けるカードたちの姿は、タトゥイーンの青年と重なります。「ここではないどこか」への強い願望を抱く田舎の少年というテーマをこの2作は強く押し出しているのです。

しかし、ルーク・スカイウォーカーが「帝国の逆襲」で自らのルーツを知り絶望したように、カードたちが無垢でいられたのもこの夜が最後でした。この映画には旅立ちのウェットな感じはないけれど、朝焼けをバックに集うレースの参加者たちと、そのあとの飛行場の場面で、胸の奥が痛む感覚があります。こんな日々は絶対に続かないという予感があるのです。なぜなら、僕たちはこれから彼らを待ち受ける未来に、こんな清々しい青空が広がることはないとわかっているから。あの空は「この頃」の人間にしか見られない景色なのです。

アメリカン・グラフィティ」は、もはや手の届かないところに行ってしまった純粋な時代のお話です。エンドクレジットに入る「それから」のお話と、ザ・ビーチ・ボーイズの「オール・サマー・ロング」によってそのことに気付かされます。これは極めて個人的な映画だけど、同時に「アメリカ」の話でもあると思います。「ベトナム戦争」の文字が重く迫り、鑑賞後に凄まじい余韻が残ります。大傑作です。