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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「オーバーフェンス」感想:フェンスの先に見える景色

こんにちは。じゅぺです。

今回は山下敦弘監督の作品「オーバーフェンス」について。

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「オーバーフェンス」は、函館の街で職業訓練校に通う白岩の再起を描くヒューマンドラマです。「そこのみにて光り輝く」や「きみの鳥はうたえる」の佐藤泰志による小説が原作になっています。舞台もおなじみの函館。あっという間に過ぎ去っていしまう北海道のひと夏の情景が、作品に切ない彩りを与えていて、とても味わい深いです。

正直、そのほかの山下敦弘監督の作品に比べると、味気なく感じました。良くも悪くも「無難」で、深く響くところがなかったんですよね。でも、彼の作品に通底している「生きづらさ」と折り合いをつける苦しさ、そして、どんな困難があっても人生は続くのだという現実の見せ方は、とても好みでした。

主人公の白岩は、家庭を顧みずに仕事に打ち込んだ結果、妻とすれ違ってしまい、結果的には結婚生活だけでなく自分の人生も破滅させてしまった男です。キャバクラ勤務の聡は、エキセントリックで精神も不安定。突然白岩の言葉に怒り出してしまったり、急に機嫌が悪くなって家に帰ってしまったりするのです。また、白岩の通う職業訓練校にいる妻子持ちの原は元ヤクザですし、大学を中退した森は新たな環境に馴染めず、教室の端で暗い顔をしています。みんなお世辞にも順調な人生を歩んでいるとは言えません。

でも、人生を立て直そうとがんばっています。過去に辛いことがあっても、文句も言わず、言い訳もせず、必死に生きているのです。そして、ふとした瞬間に知ったそんな他人の痛みやトラウマが、意外なところで自分を支えてくれることもあるのだと思います。

印象的な場面がひとつありました。白岩は、飲みの席でムシャクシャした気持ちを若者にぶつけ、「笑っていられるのも今のうちだ。そのうち楽しいことなんて何もなくなる」と叫びます。その次の日の朝、原の家で目を覚ました白岩は、原が元ヤクザであることを背中の刺青で察します。きっと彼なりに苦しいことも、辛いこともたくさんあったのでしょう。それでも、誰にもそのことを打ち明けず、黙々と妻と息子のために、生活を再建しようとしていたんですよね。みんな頑張ってるんだ、人生に悩んだり絶望したりするのは、自分だけじゃないんだ。そう思えるだけで、肩の荷が降りる気がします。

また、本当に地味な描写ですが、勝間田に孫がいるのが地味に嬉しかったです。自分より倍以上の人生を経験してきた人が、たくさん辛い目にあっても、なんとかここまでやってきているというのは、とても勇気がもらえることだと思います。

本作のラスト、白岩のフルスイングと、ボールの行方を見送るみんなの顔が爽やかでした。フェンスの先に見えるのは、いったいどんな景色なのでしょうね。次の山下作品は「天然コケッコー」あたりにしようと思います。