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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ひなぎく」感想:若さと美を兼ね備えた「最強」姉妹

こんにちは。じゅぺです。

今回はチェコヌーヴェルヴァーグの代表作「ひなぎく」について。

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ひなぎく」は、無軌道に生きる二人のマリエを描く旧チェコ・スロヴァキアの映画です。日本では90年代に「女の子映画」として人気を博しました。旧共産圏独特の刺々しいセンスとキッチュで前衛的な演出が魅力です。

チェコ・スロヴァキアの作品ということで、おそらく共産党支配の社会のあり方を問うという姿勢が背景にあるのだろうと思います。アヴァンギャルドで荒唐無稽、ほとんど筋書きもなく進むため、非常に難解ではありますが、フィルムの性質や素材感を生かした「遊び」たっぷりの映像を見ているだけで楽しい内容になっています。不思議な切り絵の数々、ナイトクラブでの狼藉、並べられた蝶々の標本、悪趣味なパイ投げ合戦。どれも強烈で一度見たら忘れられません。

主人公の二人のマリエは、ひたすら寄生と破壊をくり返す非生産的な毎日を送っています。二人して男どもを釣り上げてタダ飯を食らう様は痛快です。若さと美を兼ね備えた彼女たちは無敵です。歯車のように労働(ファーストカットは「歯車」なのですが、破滅的に生きるマリエに対置されていると解釈できます)に勤しんで「幸せ」を演じるのが本来の生き方なのか。この映画はマリエたちの目線を通じ、体制への批判を交えつつ、そんな生き方に「NO」を突きつけます。彼女たちは常道に精いっぱい抗うのです。ファーストカットに「歯車」と並んで挿入される「きのこ雲」は姉妹の結末を暗示しており、その通りになる破滅的なラストには、抑圧への絶望と権力への闘志を感じます。

本作を貫くのは、若く麗しいマリエたちの無邪気で傲慢な暴力性だと思います。思い付いた「悪さ」を手当たり次第に実行する彼女たちの脳内を覗き込むかのようなモンタージュ的編集は、見るものを混乱させますが、このカオスこそが逆説的に体制への批判になっているのではないでしょうか。大いに刺激的な映画でした。