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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「死刑執行人もまた死す」感想:当時の観客はなにを思ったのだろう

こんにちは。じゅぺです。

今回はフリッツ・ラングの作品「死刑執行人もまた死す」の感想です。

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死刑執行人もまた死す」は、ナチス支配下プラハゲシュタポに追われるレジスタンスを描く戦争映画です。第二次世界大戦真っ只中の1943年に作られているせいか、戦意高揚を煽る内容になっています。「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」を見た時も感じたのですが、この時代のプロパガンダ映画は全体主義的な価値観を称揚していて、戦後のアメリカの歴史を思うと、非常に違和感があります。大義のために散っていく人びとに共産主義の香りすら感じました。こういう「みんなで団結して悪を倒そう!」みたいな映画ばかりかかっている劇場で、当時の観客がなにを思っていたのかは気になります笑

https://eigakyorozin.hatenadiary.jp/entry/2018/10/01/090056

死刑執行人もまた死す」も前半はそのニオイがきつく、わりと退屈しながら見ていたのですが、後半から一気にその型を崩し、方向転換していました。特にチャカの裏切りが発覚してから俄然面白さが加速します。物語は、ナチスへの抵抗から、仲間を売ることで自らの地位にしがみ付いていたチャカへの復讐劇に転じます。しかし、彼は所詮「長いものに巻かれろ」な小物なんですよね。ちっぽけで陳腐な悪なのです。だから、いくら「悪者」とは言え、信じていた人全員に裏切られて無残に銃殺されるチャカは、あまりにも情けなくて少々可哀想でした。彼もまたナチスという巨悪に捻り潰された哀れな男の一人なのです。チャカ一人死んだところで戦局は好転しません。むしろ本当の地獄は「これから」なのです。残酷に突き放すかのような(そして観客の闘志をくすぐる)「Not The End」の幕引きに鳥肌が立ちました。あえてカタルシスを削ぐ不条理なラストに、戦時中の恐怖や不安が見え隠れします。

この映画を見て思い出したのはロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」です。権力によって人びとの生活が蝕まれていく恐怖と、かすかに芽生えた自由への希望が描かれていました。いずれの作品でも繰り返し描かれるのは「自由は勝ち取るものだ」ということ。おそらく当時この映画を見ていた観客たちの多くも、大切な家族や友人が戦場に送られていたことでしょう。そんな状況においてあえてこの「エンタテイメント」を見るということ。きっと彼らはそれぞれに今この国が直面してから困難に想いを巡らせ、先の見えない不安や恐怖にある程度の折り合いをつけていたのではないでしょうか。そこにある救いや慰めにこそ、フィクションの力があるのだと思います。そして、先の大戦を「歴史」の1ページとして知る現代の観客は、いまある自由はおびただしい死体の山の上に築かれたものだと改めて気づかされるのです。「死刑執行人もまた死す」は時代によって見え方が変わる作品と言えるでしょう。そこが映画の面白いところかもしれませんね。