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「日本のいちばん長い日」感想:顔の見えない「天皇」について

こんにちは。じゅぺです。

今回は「日本のいちばん長い日」について。

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「日本のいちばん長い日」は、8月14日の御前会議と、玉音放送妨害を企てる陸軍将校を描く歴史映画です。

終戦70周年記念で公開された役所広司主演のリメイク版は映画館で見たのですが、オリジナル版はこれが初めてです。僕は太平洋戦争の頃の日本の政治史が結構好きなので、教科書や本で読んだ出来事が、戦争当時の記憶も生々しい当時に、このようにリアルに映像で再現されているのは、結構テンションが上がりますね。空襲が激化した戦争末期、政府の重要会議も皇居の防空壕で開かれていたのですが、あまり写真等の資料は残っておらず、この映画のようにセットで再現されているものでも貴重だと思います。

また、リメイク版と比べても「反省」と「後悔」の色が強い内容になっていると思います。この頃の日本人、少なくともこの映画の製作に挑んだ人々の気持ちがにじみ出た内容になっているのではないでしょうか。

特に印象的なのは、敗北を目前にしながら現実を受け入れられず、大義のために国家を破滅させようとする男たちの愚かさです。内閣と軍部の板ばさみで苦悩する阿南、勝利に固執する畑中の狂気、すべての中心にいる天皇。誰も責任を取ることができないし、取ろうともしません。それなのに重要な決定はどんどん進んでいきます。こんな調子で大日本帝国は世界を相手にして戦い、国内外の人びとの生活を荒らし、たくさんの命を奪ったのかと思うと、唖然としてしまいます。

結局のところ、彼らの行動原理は「精神論」なのです。飢えた国民の命を守ることよりも、戦場で散っていった死者の無念を盾にして、自らの未練を正当化する政治家や軍部の空虚さ。船頭多くして船山に登る。この国の中心がじつは空っぽで、政治家も官僚も軍部も時局に振り回され、国体の護持でしかまとまれないことを、終始顔の映らない天皇が象徴しています。本木雅弘が堂々と顔を出して演技していたリメイク版と対照的な点でもありますが、やはり当時は昭和天皇は当然のことながらご存命だし、ましてや天皇という立場なので、このように背中や影だけを映す演出になったのでしょう。

しかし、僕にはかえってこれが効果的に思えます。憲法上、天皇大日本帝国の頂点に君臨していました(というか国家が天皇のために存在するという前提になっている)が、天皇大権の行使は実質的には内閣や軍部が行なっていました。天皇の名の下に、バラバラの権力機構が動き、空中分解したまま戦争に突入した結果が、大日本帝国の悲惨な破滅です。天皇の顔が映らない不気味さこそ、大日本帝国の制度的欠陥と、空虚な大義名分にすがって突き進めてしまったこの戦争の愚かさを象徴しているように思えてならないのです。

今回はあまり映画的な話にならず、どちらかというと僕の歴史観を映画に当てはめたような話になってしまいました。映画全体の話でいうと、少々テンポは悪かったかなあと思います。黒沢年男演じる畑中の狂気や、三船敏郎演じる阿南大臣の板挟みの苦悩など、俳優陣の演技も光っていたと思います。思想はともかくとして、戦争映画として非常にみどころのはある作品だと思いました。傑作です。