映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「グランド・ホテル」感想:人生の交差点

こんにちは。じゅぺです!

今回は古典的名作「グランド・ホテル」の感想です。

f:id:StarSpangledMan:20190206011353j:image

「グランド・ホテル」は高級ホテルに集う人びとを描く群像劇です。お話の構成的には舞台劇に近い内容になっています。後世さまざまな映画に影響を及ぼした、というか群像劇映画の原型のような作品で、群像劇映画のことを本作から名前をとって「グランド・ホテル形式」と言ったりします。!5人の男女の織りなすドラマは人生の縮図になっていて、コンパクトながらズシンと重い余韻を残す傑作になっています。

 

群像劇の難しさ

群像劇ってたくさん人が出てくるし、誰か特定の主人公がいるわけでもないので、まずキャラクターが立っていないと誰が誰だかわからなくなってしまうんですよね。そうなると観客のこちらも一気に混乱して作品から興味が離れてしまいます。さらに、それぞれの人物の紡ぎ出すドラマが混線せず、しっかり目立っていないといけません。そういえばあのおじさんの登場場面だけよく覚えてないな、みたいな感想が出てきてしまうと、群像劇としては失敗だと思います。手早く各登場人物を紹介しつつ、会話や行動を通してそれぞれの性格や価値観を浮かび上がらせ、ドラマが渋滞しないように交通整理をし、最後はある程度のまとまりが見えてくるようにお話を着地させていく。脚本が上手くないとまず成り立ちません。撮影や編集でも工夫が必要でしょう。相当作り手のレベルが高くないと面白くならないのが群像劇だと思います。

 

5人の人生の交差点

「グランド・ホテル」はそういう点ですばらしい完成度だったと思います。死を宣告されて自暴自棄なクリングラインの変化や、男たちを手玉にとるフレムの強さ、男爵のピュアな心と優雅なふるまいなど、それぞれのキャラクターと人生の交差点としてのホテルという舞台が存分に生かされていて、その巧みな語り口にうなりました。

5人のキャラクターがよく立っているから、彼らがホテルの廊下やパーティー会場で出会うたびに面白いことが起こりますし、そのたびにワクワクさせられます。だった2日間の出来事なのにとっても中身が濃い。たまたまこのホテルで出会ったことによって人生が変わる。そういう「偶然」の面白さがあると思います。

 

個性豊かな宿泊客たち

各キャラを振り返ってみると、印象的だったのはクリングラインのおっさんです。彼には終始ムカついていましたが、時折頼もしさも見せてくれて、一度人生の底を見てしまった男は強いと思いました。ちょっと風が吹いたぐらいでは倒れない図太さがありますね。

グレタ・ガルボ演じるグルシンスカヤの孤高の尊さはさすがです。簡単には近寄れないオーラがあるし、他人の色には染まらない強さがあります。こういう雰囲気のいかにも大女優って感じの人は、今はもういないですよね。

最初から最後まで悪役のプライシングはかなりのクソっぷりでしたね。資本家が徹底して悪者に描かれるあたり、大恐慌後のアメリカを象徴している気がしました。そういう意味では時代性を反映した作品になっていると思います。

男爵とフレムの友情も素敵でした。男爵はホテル専門の泥棒のわりにすぐバレてしまうし技術が拙いような…。あの雰囲気でいろいろ誤魔化しているところはあると思います笑

好きな場面は、寝室でグルシンスカヤと男爵が話すところです。男爵のまっすぐで紳士然としたふるまい(ちょっと胡散臭いけど)が彼女の心のスキマにすーっと入り込んでいく。雷に打たれたような恋に高揚する二人が美しかったです。あと、ダンスホールでフレムがクリングラインの手を取る場面も、彼女の優しさと聡明さがよく表れていました。

 

2時間弱でこれだけ複雑でエモーショナルな絡みを綺麗にまとめてしまう技術がすごいと思います。これが1931年の作品なのです。すでに完成されています。どうして上手いのか、それを分析するだけの知識は残念ながらないのですが、とにかくエピソードのつなぎ、順番、長さ、それからシチュエーションの設定。全部が素晴らしいと思いました。傑作です。