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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「アンドレイ・ルブリョフ」感想:何かを信じるということ

こんにちは。じゅぺです。

今回はアンドレイ・タルコフスキー監督作品「アンドレイ・ルブリョフ」です。

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アンドレイ・ルブリョフ」は、タタール人の侵略で混沌を極める15世紀ロシアに生きたイコン画家の半生を描いてます。アンドレイ・ルブリョフの作品では「聖三位一体」が最も有名であり、ロシア芸術の到達点の一つとされているそうです。彼の人生には謎も多く、詳細な記録も残っていないそうですが、タルコフスキーはルブリョフが混乱のロシアでさまざま経験をしながらイコン画家として「聖三位一体」の作成に至るまでを自らの解釈をもとに映画にしています。

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アンドレイ・ルブリョフ「聖三位一体」

 

自然界のマテリアル

タルコフスキー作品を見るたびに思うのは、語り口が冗長でお話もあまり整理ができていない一方、映像はとにかく贅沢で、他の追随を許さない一級品になっているということです。映像と音ですべてを語ってしまうため、イマイチ意味がわからない部分も多いのですが、あらゆる要素を組み合わせた総体としての経験が彼の作品の肝だと思います。

自然界のマテリアルはタルコフスキー作品にくりかえし登場する要素ですが、「アンドレイ・ルブリョフ」でも印象的な使われ方をしています。自在に形を変える水、全てを燃やし炭化させる火、地面を覆う草木、静かにその場に佇む金属など、自然界に存在する万物を情緒豊かにとらえています。雪と泥にまみれたロシアの大地の荘厳さと美しさをたっぷり味わいました。

 

退廃したロシア社会

若きイコン画家のルブリョフは、外界の変化に晒されながら静かに腐敗していくロシア社会を見つめ、一度は自らの芸術の力に疑問を抱きます。若者は裸で踊り狂い、芸術家は目を潰され、貴族の争いで村々は荒廃する。そんな社会で無知な民衆に救いはあるのか。このどん詰まり感って現代の日本に通ずる部分があるかもしれません。もはや芸術だなんだと言っている余裕などない。そこに豊かな土壌がなければ、草花が元気に育つことはありません。私利私欲にまみれた世の中に、信仰を美しく彩る芸術の役割などないのかもしれない。そう絶望したルブリョフの気持ちは結構切実に僕の心に響きました。

それだけリアルな実感を持ってルブリョフの心情を覗き込むことができるのも、やはり映像の力のおかげです。とにかくリッチで圧倒的なのです。たとえば、大規模なオープンセットやおびただしい数のエキストラ。自然光をなめらかに、そして温かい湿気を帯びた味わいで焼き付けるカメラ。空撮や長回しも多く、見ていて飽きません。

特にお気に入りなのは後半のクライマックスである教会の焼き討ちシーン。あまりの壮絶さと迫力に絶句しました。積み重なる死体の山を前にして希望を失うルブリョフの佇まいが素晴らしい!「見ればわかる」ことは映画において最も大事なことの一つだと思うのですが、それだけのパワーがこの場面にはありました。

 

ルブリョフの見つけた答え

破壊と創造、凡人と天才、民衆とエリート、そして無知と信仰。さまざまな軸で描かれるルブリョフの旅路は、最後に「信仰と芸術」という最重要テーマにたどり着きます。一度は民衆への希望を失ったルブリョフ。しかし、重圧にもがき苦しみながらも教会の鐘づくりに全力を尽くす少年と、彼を支える民衆の熱気を目の当たりにする中で、彼はロシア社会の未来にふたたび希望を抱くようになるのです。鐘の音がなる場面は本当に感動的でした。最後に5分ほどかけてじっくり映されるルブリョフの作品たちには、そんな激動の時代のロシアの苦しみと民衆の切実な願いが込められています。時代を超えて受け継がれてきた芸術の力に、ただただ圧倒されてしまいました。ルブリョフが民衆の情熱と力を信じた結果が、いまイコン画という形で残っているのです。

偉大な功績を残したルブリョフや教会の再興に尽力する民衆の姿見て、何かを信じることで、人は前に進むことができるのだと改めて思いました。大傑作です。