映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ワイルドツアー」感想(ツイッターより再掲)

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ワイルドツアー、みた。超絶大傑作。ワークショップで進行役をする大学生のうめは、中学生のタケとシュンを連れて山口の自然を冒険する。iPhoneを通して捉えられる名前も知らない草木、平坦だけどよろこびと驚きに満ちた日常。フォルダの中の動画は日々の輝きと苦みを閉じ込めた図鑑だ。今年ベスト。

男二人と女一人の恋愛模様を描く本作は「きみの鳥はうたえる」の変奏でもある。この映画における石橋静河は、うめ=伊藤帆乃花だ。正直、年ごろの男の子が惚れてしまうのもわかる!彼女は弟感覚で親しく接しているのに、愚かなもので、その笑顔や優しさが自分だけに向けられていると勘違いしてしまう。

シュンが編集室でうめの動画を再生する場面は印象的だ。ひとり暗い部屋で彼女の笑顔を独り占めする。大人の男がやると変質的だが、近くて遠い、年上のお姉さんに恋する少年の渇望感が切実に響いてくる。タケの告白もいい。中学生3年生と高校1年生に大きな差なんてないのに。世界が小さくて愛おしい。

この映画は入り組んだメタ構造の上に成り立っている。素人の中高生を起用することであいまいになるフィクションとドキュメンタリーの境界。この対比は、作新の多くを占めるiPhoneで撮影された映像と、そうでない普通の映画用カメラで撮影された映像を織り交ぜた編集によっても繰り返される。

しっかり用意された「物語」と、自然探検の素の表情を映す「記録」。映画全体が「DNA図鑑」の中にすっぽり収まっているようにも、その外部である作成工程のドラマを含んでいるようにも見える。これらはどちらかに割り切れるものではなく、相互に寄りかかり、密接に絡み合う有機的な関係にあると思う。

ふだん何気なく踏んで歩く地面に広がる未知の世界を探る彼らの冒険は、世界は思ったよりも広くて、ずっと複雑で、豊かなものなのだという気づきにつながっていく。冬の風に吹かれてゆらゆらと揺れ形を変える雑草が、二度と同じ姿を見せてくれないように、人生は不可逆で、どの一瞬も尊いのだ。

しかし、どこへでも持ち歩けるiPhoneのカメラは、その一瞬を永遠のものとして残す。たとえ遠い海の向こうのできごとだとしても、それはSNSを通してリアルタイムでシェアされる。空間は人を隔てなくなったけど、その分だけ人間関係を延命させることになる。良くも悪くもつながり続けるのだ。

きっとタケとシュンはこれからもSNSでは「友だち」のままでいるんだろう。二度と会わないかもしれないけれど。近況だけは把握し続けるふしぎな関係。俺も心当たりがある。だからこそiPhoneに残る「記録」ではなく、その瞬間の息づかいや体温の「記憶」がより一層かけがえないものに感じられるのかも。