映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「小さな恋のうた」感想(ツイッターより再掲)

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小さな恋のうた、みた。米軍基地の側に住む高校生が、歌を通して喪失と分断を乗り越えていく姿を描く。かけがえのない仲間の死、怒りと不信感が生む社会の軋轢、世界を決定的に隔ててしまうフェンスの存在。どうしようもない混乱の中で、彼らは歌う。ただその気持ちが大切な人に届くことだけを信じて。

これ、なんとも不思議な作品で、映画としてはそれなりに歪な構造になっている。スタートからゴールまでのあいだにいろいろ寄り道するので、着地も少々ふんわりしている印象。でも、その中で圧倒的な存在感を放つのが山田杏奈。物語も徐々に彼女の力に引き寄せられて、舞を中心とした話になっていく。

盛り付けはすごく下手くそだけど、妙に味は良い料理、みたいな映画。見た直後はなんだかな〜とモヤる気持ちもあったのだけど、じわじわと全身に沁みてきている。すごく良い感覚だけがこの心に残っている。バカヤローって叫んで布団にでも潜りたい遣る瀬なさや失望を、彼らは歌にのせて発散している。

それってとても苦しいけれど、同時に「美しい」とも思うんだよね。彼らは諦めてない。フェンスの向こうにいる少女と手を取り合うことも、たとえ彼女の父親がオスプレイパイロットであろうと、基地の周りで悲しみを抱えた大人たちが怒り狂って抗議していたとしても。まだ未来はあると信じてる。

慎司と彼のつくった歌さえ信じれば、きっとこの想いは届くはずだと、心の底から感じているのだと思う。それが彼らの「バンド」であり、友情であり、兄妹の絆なのだ。自分は「内地」の人間で、沖縄は観光で綺麗な場所にしか行ったことがないけれど、この土地の複雑な事情について考えてしまう。

基地は家のすぐ側にあって、地面に寝そべってなにげなく空を眺めれば戦闘機が飛んでいて、言ってしまえば生活の中に常に「戦争」の臭いがただよっている。それを普段から意識しているのかはわからないが、ひとたび不穏なことが起こると、その違和は山火事のようにいつまでも消えない火となって拡がる。

彼らは憎み合いたいわけではない。ブランコがあれば子どもたちは人種や出身なんか気にせず一緒に遊ぶ。もはや誰のせいでもないのに(というのは歴史を遡っていけば今さらどうにもならない過ちがたくさんあったという意味だが)、複雑に事情が絡み合って、住民と米軍基地はフェンスで隔てられている。