映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」感想(ツイッターより再掲)

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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス、みた。トニ・モリスンは「図書館は民主主義の柱」と言った。図書館は単なる巨大な書庫ではない。すべての市民に開かれ、社会の透明性を確保し、マイノリティには手を差し伸べ、善く生きるためのあらゆるすべを与えてくれる場所。ひたすら圧倒されました。

とにかく、この図書館で働く人たちは知の力を信じている。自分たちが多民族国家アメリカの民主主義を守っているんだという矜持すら伝わってくる。図書館は子どもたちの未来を切り開き、ホームレスには社会とつながる空間を提供し、貧困層の生活を助け、ハンディを背負った人びとをエンパワメントする。

高名な学者から詩人、歌手にいたるまで、さまざまなゲストを迎えて開かれるトークショー。分館では地域の子どもたちへのSTEM教育、手話講座、黒人コミュニティの意見交換。チャイナタウンでは移民向けのコーナーも。ただ開かれていくだけでなく、積極的に深く地域に入り込んでいく姿勢。

かなりざっくりした感想だけど、とっても「豊かだ」と思った。映画自体、劇伴も、ナレーションも、一切の解説もない(字幕もないので職員たちの名前も肩書きもよくわからない)。ただ図書館の景色とそこに関わる人たちを撮り続ける。完全に観客に委ねているわけだが、この図書館の本質は伝わるつくり。

そしてニューヨーク公共図書館そのもの、この図書館が存在するニューヨークという街と、アメリカという国が、やはり豊かなのだと思う。他の国の事例は知らないけど、おそらく世界最高峰だろう。最初の科学者の言葉にすべてが詰まっているのだが、人間の知性と歴史、詩的な美しさすら感じる宇宙の神秘。

絵画や詩といった豊かな芸術の歴史も、陰惨な差別の記憶も、貧しく死んでいったひとりの女性の足跡も、すべてこの図書館にある。それを次世代へ受け継いでいく責任。人類の発展の根幹を担っているのだというプライド。ここまで豊かな市民のための「公共空間」が日本にあるだろうか。羨ましい限り。