映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「20センチュリー・ウーマン」感想

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20センチュリー・ウーマン、超絶大傑作。シングルマザーと息子、そして彼を見守る二人の女性。どれだけ愛していても想いは届かない。すれ違い、ぶつかり合う。母と子、男と女、ボガートとパンク。見える景色は違うけど、幸せになりたい、幸せになってほしいと願うのは誰でも同じ。愛おしすぎる物語。

ガタがきた古い車、ボガートの「カサブランカ」、あちこちに修理が必要なアパート。ドロシアは40年代の趣味に生きている。一方のジェイミーやジュリー、アビーはパンクを聴き、「カッコーの巣の上で」を見て、女性の解放を語る。散りばめられたアイテムに20世紀の歴史と彼らの関係が映し出される。

多感な15歳のジェイミーと、彼を見守る3人の女性。同じものを見て、触れて、聴いたとしても、まったく異なるものを感じている。「ウーマン」のタイトルにある通り、当時のフェムニズムの発展が土台にある作品だが、より一般的に捉えるなら、それは母と子であろうと「他人」であるという事実だろう。

誰かにとっては最悪で悶々とした時間だったとしても、その場にいるほかの人には、嫌なことから逃げられる、心安らぐ場であったりする。片方はそれを変えようとし、もう片方は今のままでいいのだと反対する。人と人が交わることはこんなにも幸せで、そして残酷なことなのだと、改めて気づかされる。

なによりこの映画は回想で、すべて「あの頃はこうだった」というお話。もう戻ってこない、記憶の中にとどまる失われた時間、二度と会うことはないであろう人たちとの思い出なのだ。それでも振り替えざるを得ない。美しく愛おしい過去のはずなのに…いや、美しいからこそ、切ない余韻が強く残る。

ラストカットの母親のあの幸せそうな、自由人らしい解放感に満ちた笑顔。そしてどこまでも広く続く、夕陽に照らされた海。おそらく彼自身は直接見ていないであろう、息子がその景色を想像していること。2時間の語りの最後にあの場面。これはもう愛でしかないと思う。ただ愛おしいという気持ちなのだ。