映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「メランコリック」感想

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メランコリック、超絶大傑作。転がりこんだバイト先の銭湯がヤクザの「仕事場」だった…。窮屈に生きる鍋岡も、笑顔が優しい百合も、意外と頼り甲斐のある松本も、みんな大好きになる。タイルに広がる禍々しい鮮血と、酒飲み交わし温かいご飯を頬張る時間の激烈なコントラスト。紛れもない青春映画だ。

ものすごく恐ろしいことが起こっているのに、わりかし淡々と受け容れる鍋岡。終始「それでいいのか?」なのだが、このギャップが面白い。窓のない銭湯はたしかに格好の「仕事場」かもしれない。東さんも、松本も、はじめて出会ったときと違った表情を見せる瞬間がある。多層的なキャラ描写が魅力的。

けっして華々しい世界に生きているわけでない。抜け出せない弱肉強食のヤクザの社会は、まるで終業後の銭湯のように、薄暗く、ジメッとして生暖かい。風呂場って、水の流れが止まった途端、不潔に感じられるのは私だけでしょうか。そこに死体がある、さっきまで体を巡っていた血が広がっている。

水場にたいする忌避感が極限になる瞬間。対照的なのは日常の描写。なんとなくよそ者気分の実家。一方で、百合といる時間はいつも暖かく、固かった松本との会話にも、徐々に笑いが増えてくる。何に喜びを感じて生きているのか、大それた目標ないけれど、たしかに「生きててよかった」と思う瞬間はある。

得体の知らないヤクザの世界と対照的な鍋島の日常、たとえば予想もしていなかった出会い、ふと緊張が解けて笑いが漏れる一瞬、いつもボンヤリしていた彼の必死な表情が、ぐいぐい沁みてくる。この感動が積み重なって最後に不思議な余韻を残す。これでいいのか?いや、この感動がある限り大丈夫なのだ。