「アイネクライネナハトムジーク」感想
アイネクライネナハトムジーク、超絶大傑作。ずっと見ていたいと思える映画だった。人生において時々起きる「劇的なできごと」が幸せをもたらす?いや、たいていは平凡に生きる僕たちを温めてくれるのは、ささやかな日常であり、小さな夜の積み重ねだ。街の灯りは、そんな営みの証明なのかもしれない。
佐藤のくしゃっと崩れた不器用な笑みと、紗季のやさしさがにじみ出たはにかみ。客人のためにスイカを割る、帰ってきた娘のためにポトフを煮込む、リビングの植物に水をやる。仕事から帰ってくると、家に灯りがついている。「いつもの人」が路上ライブで駅前の景色に彩りを与える。かけがえのない営み。
いたるところにイベントとセリフの反復が散りばめられている。「あなたとわたし」しか知らないささいな出来事、秘密の会話。他人から見れば何でもないことかもしれない。でも、僕たちにとってそれは、とても大切な人生の思い出のアルバムの1ページで。ふと振り返っては笑みがこぼれてしまう瞬間。
ひとりでラーメンを食べる藤間=原田泰造に泣かされた。あのオーバーラップはとても良い。久留米くんとかね。何すればよくわからなくて他人に頼りたいとき、期せずして他人に背中を押されて前に進めること、あると思う。この映画に出てくる男は情けなく、決して強くはないのだが、しっかり生きてる。