「テッド・バンディ」感想
テッド・バンディ、みた。試写会にて。30人以上の女性を殺害したシリアルキラーを描く。この手の実録モノにしては珍しく〈なぜ彼は殺人鬼になったか〉を描かない。パーソナリティにも踏み込まない。この映画にあるのは〈人びとはテッドの何を信じたか〉だ。故にひたすら空虚で恐ろしい余韻が残るのだ。
ザック・エフロンがシリアルキラーを演じている。その隠しきれない色気やチャーミングさと、残虐な殺人鬼としての顔が全く結びつかない。このギャップに脳がバグる笑 スマートだしハンサム。テッドという男は確実に魅力的ですよ。却ってミステリアスでカッコいいかもしれない。だから怖い。
原題の「Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile=極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣(ポスターでもコピーに使われています)」は、判決文の引用なのだけど、ここに至るまでの顛末は非常にアメリカ的。裁判がTV中継されるのだ。ある意味、非常に民主的な社会だとも言えるが…。
〈メディア〉というフィルターを通して〈真実〉を見る〈観客たち〉という構図。伝記映画のくせに出てくる全員語り手として信頼できないのは「アイ, トーニャ」だったけれど、この映画も肝心な部分がなかなか見えてこない。断片的な印象や情報を拾い集め、〈真実〉を再構築していくしかない。
70年代の連続殺人事件を扱っているけれど、目線はきわめて現代的で、描かれているのはいまの社会なんですよね。中身はなくても、ハンサムで自信満々な小泉進次郎にコロッといっちゃうのが多数派の世界なのだから。〈観客たち〉の醜悪さ、軽薄さを笑える人は(自分も含めて)いないのかもと思ったり。