映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「空の青さを知る人よ」感想

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空の青さを知る人よ、傑作!音楽に打ち込むあおい、彼女を支えるあかね、突然現れた13年前の慎之介。生まれ育った町、まだまだ子どもの妹、好きだった彼…みんな何かに縛られて生きている。自分は何なりたい?ガンダーラは何処かにある?あおいは苦しむ。でもね、お姉さんは何が大切か知っているよ。

まずオープニングから良い掴みになっている。イヤホンで外界を遮断するあおい。ベースの練習に全神経を集中するが、フラッシュバックするのは13年前の楽しかった頃の思い出。作品の背景をさらいつつ、彼女が音楽に何を求めているのか?この秩父という町で何にもやりを抱えているのか?一気に片付ける。

13年前の理想的な「しんの」と、いろいろなものを諦めて自分を支えてくれたあかね。いずれ終わるのは見えている恋心と、大好きなお姉さんの幸せ。ほんとうは自分が何をしなくちゃいけないのか。わかっているのに素直に伝えられない、やり場のないイライラを大切な人にぶつけてしまう。

そこらへんのあおいの葛藤はストレートでよかった。若山詩音の演技もフレッシュで瑞々しい。13年前の慎之介というファンタジー設定はあれど、基本的に描かれていることはシンプル。変なひねりはない。一方、予想外に響いてくるのが大人パート。大きな夢を語り合った仲間たちの現在。現実はこんなもの。

でも、納屋の奥で錆びついたギターみたいに、あの頃に置いてきたまま、実は忘れられないでいる想いがある。あの時あの選択をしていれば…と思わずにいられないのが人間の弱さ。大人は歳を重ねた分だけ、後悔も経験している。側から見れば「情けない大人」に映るかもしれない。

何かを選ぶということは、何かを捨てるということでもある。あおいからすれば「縛られている」のかもしれないが、それもまた選択の結果。自分でその道を進むと決めたのだ。もちろん、後から悔いることはあるだろう。でも、だからといって幸せじゃないわけじゃない。自分にしか見えない青空があるのだ。

一人二役吉沢亮は最高の演技。実写でやるよりうまいのでは?と一瞬思ったが、もはや顔だけの役者じゃないぞ!ということなのかもしれない。吉岡里帆もあのほんわかした優しい声を生かしたキャラ作りがすばらしかった。あおいといる時と慎之介といる時で微妙に声の雰囲気違ったり。かなりうまい。

本田翼が天気の子のインタビューで「もう年齢的に大学生の役は厳しいけど、声のお芝居だと可能になる。新鮮で面白かった」的なことを言ってて、なるほどなと納得したことがある。今回の吉沢亮吉岡里帆もそれで。表現から肉体の演技の自由を奪われる=アニメ化されるからこそ生まれる奥深さがあった。

「肉体がないからこその自由」もあるのだと。じっさいのところアニメのデザインや動きが演技のウェイトの大半を占めるわけで、すべてを役者の名前で語るのは難しいとは思うが。なにかと叩かれがちな「非本業」の声優起用だけど、異なる味わい方を知れた気がする。