映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「蜜蜂と遠雷」感想

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蜜蜂と遠雷、傑作。コンクール会場でぶつかり合う天才たち。常人にはたどり着けない高みを目指す彼らの〈閉じた〉苦しみは共感を寄せ付けない。少しずつ手ざわりを確かめながら掴んだ感覚、舞台からの景色と雷鳴のように轟く拍手、世界と音楽に祝福される喜び。全てが一気に押し寄せるラストに身震い!

オープニングから心掴まれる。雨の中を走る馬のイメージから始まり、控室から舞台まで進む亜夜を背中から追いかけるカメラ。音楽とオーバーラップしたタイトルロールへ。なるべく言葉は使わず、映像とカメラで語る演出が好み。演奏中の亜夜の顔を写すのか、それとも背中だけ捉えるのか。

風間は荒削りな手の動きと無邪気な歓びの表情が中心。明石では演奏そのものよりも彼が背負っているものを写す。マサルは…なんでしょうね?印象的なのは、小野寺=鹿賀丈史の目線!各キャラの配置や性格を見るに、おそらく小説では膨大な背景の描写があるのだろう。若干の物足りなさは感じる。

シチュエーションとしてほとんどコンクール会場から動かない。密室サスペンスと言ってもいい。すべてがステージの上に集中している。ほんのり人物同士の関係性や人生は示唆されるが、亜夜以外に深くは立ち入らない。友情とかライバルとか、そういう話にならない。みんな〈最高の演奏〉をしに来ている。

どのエピソードもあくまで「私とピアノ」「私と音楽」「私と世界」であり、「私とあなた」は基本的には介在しないわけです。それでもエモーションを刺激される。ひたむきにピアノと向き合い、自分を削り、闘い続けた者にしか見えない世界がある。

神に祝福された青年・風間。彼がピアノを弾き始めた瞬間、会場全体に走る緊張感、マモルや明石の驚きと焦り…。突破口を見つけ、世界がひろがる快感に酔いしれるマモル。そして過去の呪縛から解放され、再び舞台に戻ってきた亜夜!あのラストは「セッション」の高揚感に近い。最高の終わり方。