映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ふたりの人魚」感想

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ふたりの人魚、みた。瓜二つのメイメイとムーダン、二人を追う男の物語。ゴミと排水で汚れた蘇州河が、発展途上の上海を見守る。移ろいゆく水の流れといつかやって来る別れの予感。ねっとりした湿気と熱のこもった臭い、妖しげなネオン、ふたりの人魚に向けられた愛しげな目線を閉じ込めたPOVが秀逸。

香港と台湾はともかく、あまり中国本土の映画って見たことなかったけど、とてもよかった。特にいまはもう撮れないであろう、先進国になる前の上海の情景。汗の臭い漂ってきそうな人混みや、雑多で不衛生な街並み、特に人魚がいるとはとても思えない蘇州河の汚さ笑 ホームビデオっぽい撮り方が良い。

物語的にどうこうということはなく、あまりしっくりは来ていない。ただ、たとえば序盤の〈俺〉とメイメイのデート(彼女の顔を照らすネオンが良い。終盤でも赤→白の移り変わりで心境の変化を表現していた)や、中盤のクライマックスであるマーダーがムーダンに暴力を振るう場面がとても気に入ってる。

ムーダンの驚き、そこから事態を悟り、隠しきれないぐらい動揺して、悲しそうな顔をするところ。また、怒りと悲しみを爆発させるのが、自分の「値段」を聞いた瞬間であるところ。マーダーよりはムーダンの気持ちになって、胸が締め付けられてしまった。失ってから必死に追いかけるなんて酷い男ですよ。

この映画はジョウ・シュンのミステリアスな可愛らしさに支えられた作品でもあると思う。あどけさの残る仕草はとてもキュートで、猫っぽさすらあるけど、やっぱりちょっとなに考えてるか読みきれない部分がある。それを内向的で独りよがりなPOVで撮る。この演出が秘め事感があって良い。覗き見の感覚。