映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「酔うと化け物になる父がつらい」感想

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酔うと化け物になる父がつらい、試写会にて。菊池真理子のエッセイを映画化。〈嫌い〉と〈憎い〉の違ってなんだろう?腹わた煮えくりかえるほど憎い。自分の人生から消えてくれとすら願う。それでも嫌いになれない。大嫌いなはずなのに、見捨てきれない。だからつらい。これは絆か、それとも呪いか…。

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松本穂香ってどんな女優だろう?と、彼女を知ろうと思ったら、この映画を見てくださいと断言できる。とにかくすさまじかった。彼女の良さって、あのほんわかとした柔らかな空気の中にどんよりと流れる独特の重さであり、冷徹にすら感じられる暗さなのだと思う。まちがいなく松本穂香=田所サキだった。

掴みどころのない、動物園のアルパカみたいにボンヤリした松本穂香と、ためこんだ感情を静かに爆発させる松本穂香。たしかに同じ人物なのだけど、まったく違う人物のようにも思えてくる。この正反対の顔を、違和感なく血の通った人間の複雑さとして表現できるのは、同世代の女優でも松本穂香だけでは?

渋川清彦にこの手の役やらせたら右に出る者はいないと思う。粗野で他人を顧みない。酔ってヘラヘラと人を小馬鹿にしたように笑う。あの赤ら顔を見て、嫌悪感を覚えない人はいないだろう。でも、ふとした瞬間に顔を出す繊細さ、無関心でいられない愛嬌もまた渋川清彦演じる父の本質なのである。

コミックエッセイの実写化とあって、少々クセのあるコミカルな演出が入るが、ここは人によって好みが分かれるだろう。俺はしばらく「なにこれ?」だったし、もっと映像で見せろと思ったけど、最後まで見てまあまあ馴染んだって感じ。個人的には「勝手にふるえてろ」の大九明子演出を思い出してしまう。

いまどき家族なんて存在は絶対ではない。子どもがいなくても、結婚しなくても、べつに恋愛に興味がなくたって幸せになれる時代。わざわざ「父なのに」「娘だから」とこだわらなくてもいいかもしれない。けど、嫌いになれないからつらい。断とうと思っても断てない。これほど残酷なことがあるだろうか。