映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「母なる証明」感想

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母なる証明、傑作。殺人で逮捕された知的障害の息子のために真犯人を探す母。これは母ゆえの愛情なのか、それとも息子への執着なのか。この世界に混じり気のないピュアな善意だけの人間などいない。エゴと保身と強欲。ひんやりとした感覚だけが胸に残った。何よりユーモラスで悲哀たっぷりの踊りよ!

「男は嫌い?」と「お前はバカだ」。何度も繰り返される印象的なフレーズだが、ここにはグロテスクな男尊女卑社会の構造、そして弱者の声に誰も耳を傾けない現実とその歪みが凝縮されていると思う。「母なる証明」では徹底して弱い立場の人間が切り捨てられる。一人としてその声が届くことはない。

死んだ顔して踊る母。力のない腕の動き。彼女の人生とは、一体何なのだろうと考えてしまう。彼女は息子の服についた自分の血を見て大騒ぎするような母親なのである。息子の身に何かあったらと案ずるあまり、不安と焦燥感で居ても立っても居られない。あの場面だけで、ああこの親子の愛は歪なのだと。

母の愛に対する息子のアンサーがない。徹底してすれ違っていると思った。共依存的でありながら、噛み合ってないのである。